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《朝日と産経は“売られた喧嘩”になぜ無言?》立憲民主党の小西洋之参院議員を巡る新聞報道の不思議

新聞エンマ帖

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★黒田退任にみる「記者の使い方」

 黒田東彦・日本銀行総裁が4月8日に退任した。10年にも及ぶ“長期政権”。「十年一昔」とも言うが、その総括は各社の総合力の見せどころである。

 朝日は、黒田氏退任当日の三面に、金融担当キャップによる解説を掲載。黒田氏が日銀職員から「使命の人」と呼ばれていたと紹介し、「使命とは、物価を継続的に2%上げる状態を作り出すこと。第二次安倍政権と日銀が約束したものだ」「黒田氏はこの使命を忠実に守ろうとし、金融政策だけでなく、日銀自体をも大きく変えた。国民の手にあるべき日銀のシンクタンク機能が、次第に失われていった10年だった」と記した。その通りだが物足りない。

黒田氏 ©時事通信社

 朝日にも的確な指摘はあった。ベテラン編集委員による3月20日朝刊の「記者解説 日銀『10年の宴』後始末へ」だ。「政府の借金を日銀が支える事実上の財政ファイナンスだ(中略)。黒田総裁は、『何の反省もないし負の遺産だとも思っていない』と言い切った」と安倍、黒田両氏の異常な関係を切って捨て、「政治家にとっては有権者の反発を招く増税や歳出削減より、日銀にリスクを負わせる方が都合がいい」として、政治側の無責任な論理を指摘した。

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 中堅記者である現場のキャップに解説記事を書かせる「記者教育」も大事だが、「十年一昔」の歴史的節目の解説だからこそ、ベテラン記者による長い視点に基づく深い考察が読みたかった。

 その点、同じ8日の日経一面の論考は見事だった。編集委員による論考は、98年施行の新日銀法下で黒田氏が初めて2期目に再任された事実を押さえつつ、「安倍氏と共振した黒田日銀」と表現。黒田氏が16年、懸念の声を排除し、日銀の国債買い入れなどで長期金利と短期金利の誘導目標を操作する「イールドカーブ・コントロール」を導入した際のことを振り返り、安倍氏が「政府として歓迎」「黒田さんは私も信頼している」と強調したと明記。安倍氏の退任、死去を受け、「大きな後ろ盾を失った黒田日銀は漂流の色を濃くしていく」とも評した。黒田日銀の本質は安倍氏との二人三脚にあると見抜き、政治と経済の双方を見渡したベテランならではの分析だった。

 読売や毎日も、退任前後に大型解説を載せたが、いずれも経済部の記者やデスクによる評論。政治の視点が弱かった。「老壮青」の記者の使い分けができているか。組織の縦割りを排し、深い分析ができているか。黒田日銀の総括記事は、そんな問題を各新聞に突きつけた。

新聞エンマ帖」全文は、「文藝春秋」2023年6月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

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売られた喧嘩になぜ無言?
《朝日と産経は“売られた喧嘩”になぜ無言?》立憲民主党の小西洋之参院議員を巡る新聞報道の不思議

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