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僕が好きになったのは最後カッコよく決めないファイターズだったんだ

 僕の手元には東京ドーム時代の大入り袋が3つあって、あの不人気な時代の貴重な遺物となっている。これはすべて球団職員の方とたまたま会って「えのきどさん、今日は大入り袋出てますよ」といただいたものだ。すべての試合で球団職員とたまたま会ってはいないから、願わくば大入りがこの3回こっきりではないことを祈る。

 いちばん古いのは95年9月23日のオリックス戦、次は97年8月21日のオリックス戦、最後が03年9月28日の西武戦。最後のやつはわかりやすい。ファイターズの東京ホーム最終戦だ。芝草宇宙の押し出しだ。あの日、僕らファイターズ応援仲間の「東京の屋根の下」の日々はいったん終わった。あんな締まりのない試合しちゃってなぁ。僕が好きになったのは最後カッコよく決めないファイターズだったんだ。

 90年代のオリックス戦はもちろんイチロー人気だ。ファイターズのホーム開催だけど、イチローをひと目見たいファンで埋まって、球団職員もホクホク顔で「えのきどさん、今日は大入り袋出てますよ」だ。あ、99年の松坂大輔デビューもあるから大入り袋が3つだけってことはあり得ない。とにかく他球団のスーパースターのおかげで大入り袋を出していたのだ。

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筆者所有、東京ドーム時代の大入り袋。やっぱりラストゲームのものが泣かせる ©えのきどいちろう

 あれから時が流れた。イチローや松坂大輔級のスターはダルビッシュ有、大谷翔平になった。まさかファイターズ出身の選手が王、長嶋に匹敵するスーパーヒーローになるとは。たぶん多くの日本人が巨人の4番、岡本和真の顔は知らなくても大谷翔平の顔はすぐわかるだろう。

 巨人戦1回戦の先発に立った鈴木健矢の記事を見た。驚いたことにスズケンのなかでは「社会人時代(JX-ENEOS)、本塁打を打たれた苦い思い出もある球場で、『狭い印象しかない』」(日刊スポーツ)なのだそうだ。いや、確かに狭い。狭いけれどそれは東京ドームだ。おじさんは「菅野ゲート」「富田ゲート」なんて言って抵抗活動してたんだ。おじさんの父親は「ただ巨人が存在する」世界観の持ち主だったんだ。

 2日、巨人戦1回戦、鈴木健矢は2失点したものの5回2/3をうまくまとめて勝ち投手になっている。ホームランはマルティネス7号、加藤豪将3号、ハンソン2号。東京ドームにコンプレックスを持たない選手たちの躍動だった。時は動いていく。

鈴木健矢 ©時事通信社

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