文春オンライン

トラブル防止のため身体接触はNG…泥酔客を起こすために路線バス運転士が使う「苦肉の策」とは

source : 提携メディア

genre : ライフ, 働き方, 社会

note

対応が難しい「泥酔した女性客」

数分すると男性はブヒッと鼻を鳴らして目を覚まし、あたりを見回しながら「うー、寒い」と言い降車していった。冷房全開は目覚ましには効果的(*8)なのである。さらに強者もいた。

8月の金曜日、うだるような暑さの夜だった。メイクが濃く派手な服装をした若い女性は、終点に着いても熟睡したままだった。全英オープンを制した人気女子プロゴルファーに似ている。女性を起こそうと近くまで行くと、私は1メートルほど手前で足が止まってしまう。なんと、服がはだけて胸元から下着がのぞいており、ミニスカートもまくれ上がって下着が丸見え(*9)のうえ、口からよだれを垂らしている。この状態で彼女を起こしたら、私はあらぬ疑いをかけられてしまうのではないか。

不安を覚えた私は、営業所に無線(*10)を入れた。「ただいま終点に到着しましたが、若い女性のお客さまが泥酔していて、目覚めません。服がはだけてしまっているもので、どう対応したらいいでしょうか?」

ADVERTISEMENT

営業所にいた泊まり当番の助役からは、「わかりました。今すぐ人を向かわせるから、お客さまに触れず、そのまま待っていてください」という指示があった。私は指示どおり、その場で待つことにする。女性のほうは見ない。

(*8)目覚ましには効果的:窓ガラスを爪で引っかきギリギリ音を出したり、耳元で手を叩いたりする運転士もいたが、クレームにつながるのでやりすぎは禁物。
(*9)下着が丸見え:休憩室の雑談の中で「今日、一番後ろの座席の女の子、パンツが丸見えだったぞ」などという下世話な話をしている運転士もいる。じつは最後列中央の座席は、運転席の車内ミラーから“丸見え”になることがある。くれぐれもご注意ください。
(*10)新人のころ、研修で、運行中わからないことがあったり、判断に迷ったりしたときは営業所に無線を入れるように指導された。何年バス運転士として勤めようが、女性の取り扱い方という点では、男という生物は永遠に初々しい新人なのだ。