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「軽度知的障害の人の心の内側を覗き込むような話はこれまでなかったので、目新しさから注目してもらえたのかなとは思います。幸いたくさんの人に読んでいただけてうれしいかぎりです」

 魅力は題材の新奇さだけに留まらない。主人公・有紗をはじめとする登場人物たちの恋愛感情の機微や、人間関係のモヤモヤをきめこまやかに捉えてあり、「恋愛中のそういう心情、よくわかる!」といった共感ポイントが満載だ。

 

「『感情を描く』というのは、作品をつくるときいつも徹底してやっていることです。じゃあその描くべき感情はどこから探してくるかといえば、自分の内側ですね。わたしは日々、自分の心を24時間観察し続けているので。こまかい感情の動きを、見逃さないようじっくり見ておいて、作品に反映させる。そうすると読んだ人が『言葉にできてなかったけど、その気持ちわかるわ』と楽しんでくれるんじゃないかと」

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取りこぼされてきたけど確かに存在する感情を描いていきたい

 漫画を描き始めたのは、小学生のころだった。小学6年には早くも漫画雑誌に投稿するようになるが、送れど送れど『もう一歩賞』どまり。デビューには至らず、いつしか描く手も止まってしまった。

 大人になり、新しく家族もできた。「幸せ」と素直に言える生活を送っていたが、なぜか心にぽっかりと穴が開いている気がした。理由は自分自身でよくわかっていた。

「やっぱり本心では、もういちど漫画を描きたかったんです。漫画で人の心を動かしたいというのが、わたしのいちばんやりたいことだと気づきました」

 

 そうして再び漫画を描き始めた。過去の自分の恋愛をエッセイ漫画にしてインスタグラムへ投稿すると、たちまち大きい反響があった。作品はのちに書籍化されることとなり(『ウチにはクズがちょうどいい ADHD女子の恋愛変歴』宝島社)、漫画家としてのスタート地点に立った。