いざ、店内へ
論より証拠、というわけでいざ店内へ足を踏み入れると、確かにそこはスーパーそのものだった。
小さな店のため品揃えこそ絞られている印象だったが、品質にも価格にも妥協はなかった。ご当地名物の焼サバは切り身と1本丸ごとの両方が取り揃えられ、やはり福井の海でよく獲れるというホウボウはお造りになって売られていた。
野菜も奉仕品のキャベツは地元・武生産。その価格、何と1玉238円。最近の凄まじい高騰の中で、まさに破格のプライス。何より目立っていたのは、お惣菜コーナーだ。売り場のセンターを占めていて、力の入りようが伝わってくる。大半が自家製、地元の食材を積極的に使っているとのことで、レパートリーも揚げ物・煮物からお好み焼き、オムライス、ピザまでとジャンルを超えて幅広い。「コンビニエンス」の看板は決して過去の遺物ではなく、その精神は生き続けていた。ご店主の家族とスタッフの方々が数名だけで切り盛りされているというから、努力の程は並大抵ではないはずだ。
「何のとりえもない店」
ご店主にこの店の歴史についてもお話を伺ってみた。開店したのは40年以上前のことで、売り場の構成や品揃えはほとんど変わっていないそうだ。やはりこの店は、コンビニ草創期のカオスぶりを今に伝える空間だった。
ご店主はしきりに「何のとりえもない店」と仰っていたが、むしろその真逆というほかない。開店当時、この周辺ではスーパーもまだ一般的ではなく、今でいうところのコンビニのスタイルは全く念頭になかったとのこと。「コンビニエンスストアー」の条件として求められたことで記憶しているのは、駐車場の確保だったという。その条件をクリアするため、もともと営んでいた食料品店を取り壊して駐車場に変え、その奥に今の店舗を建てたのだそうだ。国内有数の自動車普及率をマークしている福井県とはいえ、約40年前という時期を考えればなかなか先進的だったはずだ。
かつて時代の先端を行っていた「コンビニエンスストアー」も、今やショッピングモールや大手チェーンの「コンビニ」に包囲され環境は厳しくなる一方で、ご店主の代限りで終幕を迎えることになる見込みだという。出来る限り長く、この貴重な姿をとどめて頑張ってほしい。昼食にご自慢のお惣菜に舌鼓を打ちながら、そう願わずにはいられなかった。
写真=伊東秀爾