1970年代に普及が始まって以来、過酷な競争と淘汰に明け暮れてきた日本のコンビニ業界。今や大手3社だけで売上高シェアの9割を占める状況に達し、最終戦争の時代へ突入したともいわれている。不動の1位・セブンイレブンは来年度中に全都道府県制覇(=沖縄県進出)を達成する見込みで、その後を追うファミリーマート、ローソンも、中堅各社との合併・提携を推し進めるなど勢力拡大への道を模索し続けている。
コンビニ最終戦争時代の「幻の屋号」
そんな厳しい世情から身を潜めるかのように、かつてコンビニの草創期を切り開いたといわれている「幻の屋号」を掲げた店が今なお生き残っているという。しかも、店名はコンビニを名乗りながらその中身はスーパーなのだという。一体どんな店なのか。この目で確かめるべく、北陸・福井県の越前市へ向かった。
場所は市の中心部・武生からさらに東へ5kmほど離れた味真野という小さな町。一見のどかな農村の集落だが、万葉集に詠われ、さらに古代日本史の大きな謎といわれる継体天皇が即位前に暮らしていたという伝説も残る、知る人ぞ知る歴史の名所だそうだ。長さも深さも到底比較にならないのは承知の上だが、歴史の里にこれまた歴史的な店あり、といえよう。
たどり着いた店の名は「コンビニエンスストアー Kマート味真野店」。店のホームページでもグーグル検索でも、確かにここはスーパーだと紹介されているのだが、看板の大きな「コンビニエンスストアー」の文字はそれらの情報をかき消そうとしているかのようだ。
セブンイレブン1号店より4年も早かった
Kマート。これこそが探し求めていた「幻の屋号」だ。1970年に大阪・十三で1号店が開店したという記録が残っていて、日本におけるコンビニチェーンの先駆けの一つともいわれている。有名な東京・豊洲のセブンイレブン1号店の開店は74年で、これより4年も早かったのだ。
ただ、大手チェーンが台頭する以前は何をもってコンビニと称するかの定義が曖昧で(それ故、真の「日本初のコンビニ」はどこなのかも未だ決着していない)、Kマートも今の基準ではミニスーパーというべき、生鮮食品の比重が高い品揃えだったといわれている。コンビニを名乗るスーパーだという「味真野店」の不思議さは、どうやら混沌とした時代の名残ということのようだ。
ともかくもコンビニ史の先陣を切ったには違いないKマートの名が幻と消えてしまったのは95年のこと。親会社が破たんした影響を受けての本部消滅という結末だった。それから20年以上を経ても往年の看板を守るこの店(※現在は全日食チェーンに加盟)は、まさしく「コンビニ考古学の遺産」ともいえる存在なのだ。ちなみに、同じくKマートを名乗ったまま存続している元加盟店は、調べた限りここ福井の他、長野・千葉・茨城にも点在しているらしい。