ベストセラー漫画『岡崎に捧ぐ』(小学館)の著者・山本さほ氏が4月26日に最新刊『てつおとよしえ』(新潮社)を上梓した。

 本作は、『岡崎に捧ぐ』では描かれなかった山本氏の両親が主人公。機械オタクで超マイペースな父・てつお、過干渉で心配性な母・よしえ、そして3人きょうだいの末っ子「さほ」が繰り広げる、ほっこり和んでちょっぴり泣ける感動の物語となっている。テレビプロデューサーの佐久間宣行氏からも「恥ずかしいくらい共感してしまった。全人類が両親に会いたくなるマンガ」と絶賛のコメントが届いている。

©山本さほ/新潮社

機械オタクの父と過干渉気味の母の夫婦関係が魅力的

「山本さんと打ち合わせをしているときに、『岡崎に捧ぐ』では描かれなかった家族について聞いてみたら、その話がすごく面白くて。特に、機械オタクのお父さんのキャラクターが強烈で。過干渉気味のお母さんとの夫婦関係も面白かったので、マンガにしたらすごく魅力的になるんじゃないかと思ったんです。だから今回、ご両親の話を描いていただきました」(担当編集の武政桃永さん)

ADVERTISEMENT

©山本さほ/新潮社

 “家族あるある”や“子ども時代あるある”が詰め込まれた本作は、『小説新潮』での連載時から「懐かしい」「ほのぼのする」などの反響があったという。なかでも、過干渉気味の母親に対して、思春期の「さほ」が苛立ちを見せるエピソードでは、多くの女性から共感を集めた。

「思春期の娘が母親の過剰な心配に鬱陶しさを感じる場面では、特に女性から『私もそうだった』という声が多かったです。でも、決して“毒親”としてネガティブに描いているわけではなくて。30代後半の大人になった山本さんが、母親の過干渉を“思い出”として振り返って描いているから、生々しさがなくて、ほのぼのと読める。だから共感の声が大きかったのだと思います」(同前)

©山本さほ/新潮社

 日常生活の一場面や過去の思い出などを誇張せず、フラットに切り取る山本氏だからこそ、多くの人々が共感するエピソードを描けるのだろう。

両親の「いつか」が来る前に、子どもとして何ができるのか

 また山本氏の作品では、一貫して「子どもから大人になるまでの葛藤」や「大人になりきれない自分」がテーマになっている。それは本作でも同様だ。「大人になれないこと」を嘆く自分は、徐々に年老いていく両親の「いつか」が来る前に、子どもとして何ができるだろうか――。誰しもが一度は経験するそんな葛藤や悩みも、本作の“共感ポイント”のひとつだ。

「読者からいろいろな感想をいただくなかで、『両親が死ぬまでに、あと何回会えるんだろう』『親と離れて暮らしているから、1年に3回会ったとしてもあと10数回しか会えない』というコメントもありました。何気ないコメントですけど、すごく大事な“気づき”ですよね。

てつおとよしえ』(新潮社)

 それを思い出させてくれるのが、『てつおとよしえ』なんじゃないかなと思っています。今の自分にとっての“大事なもの”は何なのか、改めて考えるきっかけになれば嬉しいです。

 もちろん、そういうことを考えずに力を抜いて楽しめる作品でもあります。殺伐としたニュースが多い世の中ですが、ぜひ山本さんと両親の関係性にほっこりしながら読んでみてください」(同前)