AIやIoTが躍進する時代に、働き方はどう変わる? ヒトの仕事が奪われるといわれるが、将来を見据えて選ぶなら何が正解か。企業再生の第一人者であり、産業界全体から見た人工知能に精通する冨山和彦さんに、これからを生き抜く心構えを一問一答式で訊く、全5回シリーズ。

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『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著)
『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著)

Q これから起業したいと思っています。AI分野で見込みがありそうなカテゴリー、キーワード、有望なIT系スタートアップを教えてください。

A ディープラーニング系、とくに“画像認識能力”に注目です。

 直近でいうならば、ディープラーニング系が伸びると思います。ディープラーニングでは、視覚認識、つまり画像認識能力が飛躍的に進化します。ディープラーニングが最も優位性を持っているのが、AIの“眼”にあたる技術だからです。たとえばAIを翻訳作業に使うときも、実は画像をあいだに噛ませて読み取らせています。ですから、ディープラーニングを視覚技術に応用する領域というのは、ここしばらくは面白いです。

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 ただ、この先10年ずっとそれだけが続くかというと、そうでもない。大技術爆発が起きるときと、その後フラットになるときがあるからです。今のように世界中の超優秀な研究者、技術者が大勢集まって取り組んでいると、10年ぐらいできっとネタも尽きてしまうのではないか。

冨山和彦氏 ©平松市聖/文藝春秋

 むしろ長期的には、ものづくり系ですね。とくに面白いのは、アルゴリズムとハードウェアのかけあわせ。メカニズムです。さまざまな問題を統合的に解決する必要があるため、それなりに時間がかかる分野です。現在、YouTubeなどに、AIを搭載したロボットが上手に作業をしている映像が流れていますよね。でも、その映像をあのまま信じちゃダメです。あれはたぶん何回もロボットにやらせてみて、うまく成功した場面だけを流しているのです。

 いざ産業として実用化するとなると、そうは簡単にいきません。たとえば、クルマの場合を考えてください。世の中には何千万台も走っていますが、その1台でも事故が起きると困るわけです。となると、非常に高い精度のものを100万台単位で造れるようにならないとダメ。100万台単位で同じモノを再現して造るのと、ロボコン用のロボットを1個だけ造る、というのは、もう全然次元が違う話だからです。人の命に関わるような製品を、安全性や信頼性を担保して実現するということは簡単ではない。おしゃべりが得意なペッパーみたいな、脳にあたる機能だけで済むのだったらむしろ話は簡単なのですが。

©iStock.com

 さらにもうひとつ注目なのが、AIをしたたかに上手に使っていくベンチャーです。産業革命のときは得てして、それを発明した人間よりも、それをリアルの世界で上手に使った人間のほうが成功した話はよく聞きます。AIベンチャーを見極める時には、自分がAIについて、スーパープロフェッショナルである必要は全然ない。そのかわり、どこでどんなものがつくられて、どこでどういう人が出てくるかを評価する能力はあったほうがいい。あるいは評価する能力がある人間と友だちになっておいて、そのアドバイスをもとに本物を選べるといいです。中長期的にみて私が注目しているのは、トヨタや日立などとも協業している東大発のプリファードネットワークス、ロボットベンチャーのMUJINなどですね。

#2に続く

●講演会のお知らせ
2018年ビジネス書グランプリ グロービス経営大学院特別賞受賞!
『AI経営で会社は甦る』著者 冨山和彦さん講演会「AI経営『勝利のシナリオ』」
4月9日(月)19:00〜(18:30開場) 於文藝春秋西館地下ホール
AI時代、日本の取るべき戦略は? あなたとあなたの会社が生き残るには? Q&Aタイムあり。
お申し込み先 https://bunshunlive23.peatix.com/?lang=ja

*本シリーズは第8回「~hontoで学ぶ~」「経営共創基盤代表取締役CEO冨山和彦 特別講義『AI経営で会社は甦る』」(2017年4月17日)より収録・構成しました。  

AI経営で会社は甦る

冨山 和彦(著)

文藝春秋
2017年3月29日 発売

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