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 NHKの朝ドラでも、『半分、青い』(2018年)で少女マンガ家の秘書、『おちょやん』(2020~21年)ではベテラン女優と、ヒロインに影響を与える役をあいついで演じた。さらに昨年公開の映画『さかなのこ』(のん主演)では、10年ぶりに映画撮影にのぞみ、魚に夢中になる主人公を温かく見守り、背中を押し続ける母親を演じている。

 作品ごとに新たな役に挑戦を続けるが、じつは臆病な井川は、出演依頼を受けるたび《その役は私に担えるだろうかと、要素を考えていくと毎回慎重になります》といい、《そんな中で大切にしているのは自分がその役に好奇心をかき立てられるかどうか。それが作品に向かう原動力になっています》と語っている(『LEE』2022年10月号)。

(左から)井川遥、仲間由紀恵、高島礼子 ©文藝春秋

今、新たに情熱を燃やすもの

 現在は俳優業とは別に、2017年に立ち上げたファッションブランドのディレクターも務める。どちらも表現活動である点は共通するが、その内実はかなり違うらしい。井川に言わせると、《女優の仕事は、作品の一部分を担っていて、タイミングを合わせて作っていくものですが、ものづくりは主体となって最初から最後までかかわります。自分のアイデア次第でどんどん変わっていくのが目に見える。それがすごく楽しくて、ふつふつと情熱が湧き上がってくる》という(『LEE』2020年1月号)。

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 新たに情熱を燃やすものを見つけつつ、俳優としても新境地を拓く。今年放送のドラマ『罠の戦争』(関西テレビ制作・フジテレビ系)では、草彅剛演じる主人公の妻役を好演した。その劇中、彼女は政治家秘書から政界に進出する夫と、何者かに大けがを負わされ意識不明になった息子を懸命に支えながら、性暴力に遭った女性たちを救うための社会活動にも積極的にかかわっていき、最後には意表を突く行動を見せた。

©文藝春秋 

 井川といえば、サントリー「角ハイボール」のCMのイメージキャラクターとしてもおなじみである。この役は同世代の小雪、菅野美穂に続く3代目だが、2014年に引き継いでから今年ですでに10年目と、出演期間では歴代最長である。

 このCMのなかで井川がバーの店主として客に笑顔を振りまき、場をなごませる姿は、元祖癒し系は健在と思わせる。一方で、アイスピックで割った氷の破片をわざと客にかけたりと茶目っ気を見せるところは、案外、素の彼女に近いのかもしれない。それでいてミステリアスな雰囲気も漂わせ、数十秒のCMにもかかわらず、あれこれ想像させるところこそ井川遥という俳優の奥深さだろう。