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20年来の“うるさ型”ファンが、今季の新庄ファイターズに期待する理由

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/23
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 7月17日対西武戦、3点リードされての7回表。下位打線がチャンスを作り、無死満塁という絶好の場面で打席に入ったのは万波中正。ファイターズ応援席のこの日最高の盛り上がりがパソコンの小さな画面越しにも伝わってくる。2球目、本田圭佑が投じる外寄りの甘いスライダーを打ち損じた万波はベンチに戻りながら、悔しさをぐっと噛みしめているように見えた。加藤豪将は魅入られたように佐々木健のストレートを見逃し、マルティネスは水上由伸のシュートに詰まらされ力のないゴロに終わった。ハイタッチする西武バッテリー。西武の一人一殺リレーにチャンスを潰し、まさかの無得点。

 イヤな予感がした。野球には流れというものがある。その裏登板した宮西尚生が2死から外崎、マキノンに連続ホームランを打たれるのを、まるで予め決められた筋書きを見るように見ていた。外崎修汰の打席、不用意にストライクをとりにいった初球をものの見事に打ち返され、宮西は「しまった!」と呟いているように見えた。マウンド上で独り言を言って気持ちを整理するのがこの投手のルーティンだが、マキノンの一発のあとの表情はもはや画面には映らなかった。

 5点差。瀕死のハム打線に反撃する力は一滴も残っていない。最後のチャンスに五十幡亮汰が力のない内野フライに終わり、いつも通り足早にベンチ裏に消えていった新庄監督の表情はうかがえなかった。これで10連敗。最悪の形でオールスターブレイクに突入だ。

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 この原稿が掲載されるのはオールスターブレイクも開けた23日のオリックス戦当日である。だが私がこれを書いているのはまさに西武戦試合終了直後だ。読者からすれば1週間も前のイヤな記憶を呼び戻されたような気分だろうが、やはりこの悔しさを噛みしめるところから私たちは再出発するしかない気がする。

こんなどん底の絶不調がいつまでも続くはずがない

 ご挨拶が遅れました。文春野球の読者の皆さん、始めまして。小野島大と申します。主に音楽関係のライターをしています。えのきどいちろうさんからのオファーでこれを書いています。野球ファン歴は長いですが、ファイターズ・ファン歴は2003年から。応援するようになったきっかけは小笠原道大です。

 ご存じの方もいるかもしれないが、私はいわゆる「うるさ型」のファンで、監督采配だの、フロントのやり方だのに対してSNSや自分のnoteでいつも文句ばかり言っているタイプのファンだ。決してネガティヴにならずいついかなる時もチームを前向きに応援するようなタイプのファンではない。球団関係者が見れば眉をひそめるようなことも書いてきた自覚がある。そんな私が「文春野球」で、皆さんに喜んでいただけるような文章を書くなら、ポジティヴになれるような、つまりチームが好調な時に書くしかないだろうと思い、6月上旬にオファーを受けてから機会をうかがっていたのだが、まさかの交流戦明け7カード連続勝ち越しなし、最下位に転落して目下10連敗中という最悪のチーム状態に突入してしまった。7月14日の本欄の斉藤こずゑさんと同じように復活した今川優馬に期待したが、残念ながら起爆剤とはならなかった。

 しかし実のところ私はそれほど落ち込んでもいないし腹を立ててもいない。こんなどん底の絶不調がいつまでも続くはずがない。長いシーズン、負けが込む時期は必ずある。長いプロ野球ファン歴、弱いチームばかり応援してきたおかげで、そんな「達観」も身についた。たまたま交流戦までは投打が噛み合って上位をうかがえるような勢いがあったが、その反動が来ただけのこと。とことん落ちればあとは這い上がるだけだし、オールスターブレイクはいい気分転換に……なるといいんですけどねえ。

 チームは4年連続Bクラス中。一昨年までは栗山采配に、去年は新庄采配に怒り心頭だった私が、今年はそれほど気にならないのは、新庄流のエキセントリックな戦い方に慣れたこともあるし、新庄監督自身も角が取れ采配や戦略が多少なりとも洗練されてきたこともあると思う。去年は思い通りにならない結果に感情的になる場面もあったし、観客動員の不振は堪えたはずだが、今年はずいぶん我慢しているように見える。猫の目打線の効果で若手が経験を積み、着実に成長もしている。もちろん言いたいことはたくさんあるが、去年に比べればはるかに期待が持てるシーズンだ。

 ただ今は投打が噛み合わない。10連敗中1点差負けが7つ、2点差負けが1つと、接戦に弱いのは明白。競り合いに弱いのは弱いチームの証拠だと言われるが、ミスの連続で試合を落とす今のハムに、かつての試合巧者の面影はない。こういう時にはやはり精神的支柱となるような中堅・ベテラン選手が頼りになるが、ここ2~3年で主力選手を次々と――それぞれやむを得ぬ事情があったにせよ――放出してきたツケを今は払っている状態だ。

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