「先週の今頃の時間、このあたりで不審な人物を見かけませんでしたか?」
7月9日の午前1時半から2時半。北海道警の捜査員20名が、通行人や通行車両に必死の検問を行っていた。場所は北海道一の歓楽街、札幌市ススキノにあるラブホテル街だ。ちょうど1週間前――7月2日のその時間帯、つば付きの帽子を深くかぶった黒っぽい服装の人物Xが、スーツケースを引いて夜の街に姿を消した。Xが約3時間滞在したホテルの一室からは、その日午後、頭部のない男性の遺体が発見されたのだった。
被害者男性は「女性の恰好で会場に来ました」
3日、指紋や手術痕などから身元が判明した男性は、現場から約30キロ離れた恵庭市に住む会社員のAさん(62)。
「Aさんは結婚後、故郷の恵庭に戻り、内装建材会社の工場で働いていました。奥さんと成人した2人のお子さんがいます。5年ほど前は町内会の区長さんを当たり障りなく務めていました。周囲とはほとんど交流がありませんでしたが、優し気な方で、トラブルもない。冬場は黙々と自宅前で雪かきをしていた姿を覚えています」(地元住民)
一方で、Aさんは多様性の時代を謳歌する男性だった。殺害される前夜、Aさんは現場となったホテルから徒歩5分ほどの場所で開催されたディスコイベントに1人で参加。顔見知りの参加客が振り返る。