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50代を過ぎてから咲いた「観念の花」

《眼をとじて》1900年以降 油彩/カンヴァス 岐阜県美術館蔵

 あれ、でも。冒頭で見たルドンの《グラン・ブーケ》は色彩豊かだし、そもそも花束は現実にあるものではないかと思う向きもあろう。

 そう、長らく黒色をベースにした作品を描いていたルドンは、50代になってからいきなり色に溢れる絵を量産し始めた。花をテーマにした今展は、彼が晩年に描いた作品を多く展示している。ルドンの画業には明暗の両面があり、今回は「明」のほうにスポットを当てているというわけだ。

 ただ、でき得れば《グラン・ブーケ》や、穏やかな雰囲気の中に人と花を描いた《眼をとじて》、かたちの類似から並べたのであろう《蝶と花》などを、もう一度ゆっくり眺めてみてほしい。画面はどれも色彩に満ちているものの、底抜けに輝く明るさはそこにない。

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《蝶と花》1910-1914年 水彩(木炭?)/紙 プティ・パレ美術館蔵 ©Petit Palais / Roger-Viollet

 どちらかといえばその色調は、暗闇を逃れてなんとか発光し続け、なんとか最低限の明るさを保っているように見える。花や女性や蝶の実在感にも乏しい。観ている私たちがいったん目を離したら、すぐ闇に呑み込まれ消えてしまうんじゃないか。そんな儚さを感じさせる。

 花や女性や蝶をルドンは写生もしただろうけれど、目にしたものを忠実に写し取ろうとはしていない。描く対象をいったん取り込んで噛み砕き、脳内で自分なりのイメージとして再構成したものを、絵画のかたちにして吐き出している。

 ルドンの作品に描かれているものはすべて、彼の観念なのだ。

 闇から浮かび上がるルドンの「観念の花」は、彼の体内を通過している分だけ雄弁である。会場で一枚ずつとじっくり向き合い、対話をしてみたい。

《メドックの秋》1897年頃 油彩/カンヴァス ボルドー美術館(オルセーより寄託) ©Musée des Beaux-Arts, ville de Bordeaux. Photo F. Deval