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――動きを抑えるぶん、声に過剰な動きが出てしまう。それを抑えながら演技するというのは、たいへん難しそうに思えます。舞台や実写作品とは勝手が違うというか、演技のアプローチを変えるのですから。

松田 それまでの声優としての仕事とは、大きく違ったということです。だから、思いましたよ。ひょっとしたら宮崎監督は、実現可能であればエミシの村やタタラ場の仮セットを組んで、そこに僕らを置いて絵と同じ動きをさせながら録りたいんじゃないかなって(笑)。

『もののけ姫』より

――絵と声のタイミング、動きなしの演技で生じる声のオーバーアクトと難関があったようですが、なかでも突出して難しかったものってありましたか?

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松田 アニメーションとしては、やりやすかったほうだと思います。一言でいうと、芝居ができている。

――芝居をできる環境にしてくれるということですか?

松田 セリフの間などが、きちんと成立している。宮崎さんがお作りになる、芝居の間みたいなものが素晴らしいんだと思います。

――そうした環境に身を置かれた場合、それまでの舞台経験は大きく作用するものですか。

松田 日本語と向き合ってきたことは、活きましたね。舞台に立つ時、僕は演劇って言葉と向き合うことだと思って、そこを徹底的に勉強して努力しました。もちろん感情の表現が第一ですけど、ちゃんと言葉を客席に届けることをこだわり抜いてやってきたんです。

「劇場行ってポスター見てたら、『おっ、松田洋治』」

――松田さんは、青井陽治さん、木村光一さん、蜷川幸雄さんなど、名だたる演出家が手がけた舞台に立たれていますが、そのなかでも特に言葉を重視した方というのは。

松田 蜷川さんですね。というより、蜷川さんがそういう演出をしていた頃の舞台に立っていたので。蜷川さんは演出をガチッと作る人なので、俳優個人の作業としては、とにかくセリフをキチッと客席に届けるしかない。

 蜷川さんは、声がどうこうとか、俳優のセリフについてはあまり教えない人なんです。俳優としての技術みたいなものに関しては口を出さないけど、ものすごく必要とされるので、そこは個人が必死に極めるしかなかったんですね。

©末永裕樹/文藝春秋

――鈴木さんは松田さんが出演されていた舞台を観ていたのでしょうか。

松田 観たかどうかはわかりませんけど、チラッとヒントめいたことをおっしゃってはいるんですよ。当時、大勢で話している時に、「(アシタカを)誰にしようかなと思ってたんだけどさ、劇場行ってポスター見てたら、『おっ、松田洋治』と思って、『ああ、そうだそうだ』と思ったんだよ」と。

 それまでの10年、きちんと演劇に取り組んできたこと。そこできちんと日本語をしゃべる、セリフを伝えることにこだわってきたご褒美が、『もののけ姫』であり、アシタカ役だったんじゃないかなって。鈴木さんが、劇場だ、ポスターだなんて話すということは、たぶん演劇も何かしらの決め手になっていたんだと思いますよ。

#2に続く)

©末永裕樹/文藝春秋