退職は男女の別れ際と同じで「揉めます」
水生 『ひよっこ社労士のヒナコ』を本にする前、佐藤先生に法律的なことをチェックしていただき、とても助かりました。退職時に揉めるケースは多いのでしょうか?
佐藤 別れ際は男女の関係もそうですが、揉めますね。ひとつは、退職金がもらえるはずと思っていたのにもらえなかったケース。よく誤解されていますが、企業には法律上必ずしも退職金を払う義務はありません。会社の制度として退職金規程があれば払ってくださいということなんです。退職金規程がないのに、請求して揉めることはあります。
また、有給休暇の問題。年次有給休暇は労働者の権利として認められていますが、辞めるときにまとめて有休をとろうとすると、経営者は怒り出すことが多いですね。
水生 有給休暇については、第1話「五度目の春のヒヨコ」で書きました。振替休日と代休も、よく混同されていますよね。
佐藤 そうですね。振替休日と代休は、意味が違います。振替休日は、事前に決めておくんです。たとえば、日曜に出勤する予定なら、前もって水曜日に休むと決めます。すると休日と労働日がチェンジされることになります。一方、代休は事後に決める。たとえば日曜日に出勤したら「明日、代わりに休んでいいから」と言われて休む。この場合は休日出勤した事実は変わらないので、割増賃金を払わなければいけません。
水生 勉強になります。
給与明細を見てみよう。支払い漏れがあるかも
佐藤 また、給与明細は大事で、情報の宝庫なんです。つい手取りの金額ばかり気にしてしまうと思いますが、しっかり見ていただきたいですね。給与明細書は大きく分けて、「支給項目」、「控除項目」、「勤怠項目」という3つのカテゴリーに分類されます。
支給項目は、基本給や家族手当、通勤手当といった諸手当など、いわゆる労働の対償として会社から支給される賃金のことです。これは「こういう仕事をしてくれたら、これだけの手当を出しますよ」という会社からのメッセージなんです。控除項目は、総支給額からいわゆる「天引き」されるもの。たとえば、所得税や健康保険料、厚生年金など。なぜ引かれているのか、疑問に思うことで世の中に対して関心を持つようになると思います。
例えば今話題の「厚生年金保険料」は強制的に控除されていますが、どのように保険料額が決定されどのように年金額に反映されるのか、またそもそも公的年金制度とはどのような仕組みのもので、現在何が問題とされているのか、に関心がいきます。
勤怠項目は、出勤日数や労働時間、年次有給休暇の取得日数などといった勤務実績。1ヶ月の働きぶりを振り返るいい機会です。きちんと見れば、残業をしたのについていないと気づくかもしれません。
水生 給与明細の話につながりますが、病院の先生に残業代が支払われていないと最近ニュースで聞きます。お医者さんはこれまで気にしなかったんですか。給与明細を見ないんでしょうか。
佐藤 ドクターにはこれまでは賃金の法的性格にあまり関心を持つ人が少なかったけれど、権利意識を持つ人が増えてきたんでしょう。病院側にも「残業代込みで、それなりの報酬を払っているんだ」という意識があったんだと思います。しかし、医者だから残業代を払わなくていいという理屈にはなりません。
また、ドクターの場合、年俸制が適用されている人が多いと思います。年俸制なら、残業代が払われなくてもいいという都市伝説がありますが、それはまったくの誤解です。年俸制でも、労働時間が1日8時間超えたら払わなければなりません。これからは医療業界で残業代の請求は増えていくと思いますね。