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サッポロ社員ですらその存在を知らなかった…世界中のクラフトビールを支える「ソラチエース」の数奇な運命

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genre : ビジネス, 商品, 企業, 国際

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そして20年には豪州でも約1兆1400億円で豪州最大手のビール会社「カールトン&ユナイテッドブルワリーズ(CUB)」を買収した。これらはみな、世界最大手のABインベブから買ったもの。

実はCUBは、1990年代に樋口が投資して失敗したフォスターズの一部に当たる。

アサヒが手を引いた後、フォスターズはワイン事業とビール事業を分離したが、ビール事業がCUBである。やがてCUBをSABミラーが買収し、SABミラーをABインベブが買収。そして、CUBをアサヒが買収した。「スーパードライを世界ブランドにしていく」野望をアサヒは持ち続けている。

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「高くても買いたい」商品が求められている

キリンはクラフトビール事業を進めている。クラフトビールを展開するスプリングバレーブルワリー(本社は東京都渋谷区)を設立させ、渋谷区代官山と京都に小規模所増施設を併設するレストランを運営。米豪ではそれぞれクラフトビール会社を買収した。

その一方で、発酵・バイオ技術をベースに独自に発見したプラズマ乳酸菌事業を展開中だ。人の免疫細胞には会社と同じように上下関係があり、指示命令する“部長”に当たる立場の「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)」がいる。プラズマ乳酸菌は、pDCを活性化させる特性をもつ。キリングループの清涼飲料やヨーグルトに使うだけでなく、国内外の食品や医薬メーカーに素材として広く提供している。

サントリーは23年春、「サントリー生ビール」を発売した。同年10月、26年10月の酒税改正をにらんで、酒税が安くなるビールで勝負を賭けた格好だ。

日本のビール4社は、これまでのビール・発泡酒や新ジャンルで培った醸造技術を生かし、価値の高いビール、さらに新しい事業を世に出していくだろう。既存のメインブランドのブラッシュアップはもちろん、クラフトビールのような少量多品種の展開も予想の範囲である。売価は高くとも、消費者から深く支持される商品が求められている。

永井 隆(ながい・たかし)
ジャーナリスト
1958年、群馬県生まれ。明治大学経営学部卒業。東京タイムズ記者を経て、1992年フリーとして独立。現在、雑誌や新聞、ウェブで取材執筆活動をおこなう傍ら、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。著書に『キリンを作った男』(プレジデント社)、『サントリー対キリン』『ビール15年戦争』『ビール最終戦争』『人事と出世の方程式』(日本経済新聞出版社)、『国産エコ技術の突破力』(技術評論社)、『敗れざるサラリーマンたち』(講談社)、『一身上の都合』(SBクリエイティブ)、『現場力』(PHP研究所)などがある。
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