7月24日、夏の本格的な到来を感じる蒸し暑い夜であった。それは打った瞬間に分かった。打球は真夏の夜空に舞い上がり、マリーンズファンで埋まるライトスタンドへと奇麗に消えていった。まさに起死回生。1点ビハインドの9回二死一塁からの代打逆転サヨナラ本塁打。1ストライクから投じられた152キロストレートを仕留めた。しかも相手はホークスの絶対的守護神・オスナだ。打った角中勝也外野手が右こぶしを上げる。場内はまさに興奮の坩堝と化した。

角中勝也 ©千葉ロッテマリーンズ

「打った瞬間でした。うれしいです。相手もオスナだったので、打てなくても仕方がないというぐらいの開き直った気持ちで打席に入りました」と普段はクールな角中選手も珍しく興奮気味。ヘッドスライディングしながらホームインした。

 代打逆転サヨナラ本塁打は球団では73年5月30日のホークス(当時南海)戦以来、50年ぶり2度目。最終回二死から代打逆転サヨナラ本塁打は球団史上初の快挙となった。

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 和田に変えての代打に指名した吉井理人監督は「あそこに迷いはなかった。角中一択だった。左バッターで勝負強さがある」と、してやったりの表情を見せた。そして「初球のファウルを見て、一発を狙いにいっているスイングに見えた。本当にホームランになってよかった。さすがはベテラン。おもいきって割り切って打ったと思う。そうじゃないとあんなホームランは出ない」とニヤリだ。

 いつも練習時からその姿をみてきた。ベテランが醸し出す独特のオーラとどっしりとした振る舞いに信頼を深めている。「角中はスタメンに出たり出なかったり、代打で出たりと調整が難しい中、いつもしっかりと準備をして試合に向かってくれている。打つだけではなくバントもしっかりと出来る。練習を見ていても毎日、絶対にバントの練習をしている。ああいう姿をみんな見習って欲しい」と、これまで首位打者に2度輝いた大ベテランの日ごろの振る舞いを賞賛しながら若手選手たちへのメッセージとした。

©千葉ロッテマリーンズ

「オレは今年、結構いい感じだなと最初から思っていた」

 36歳のプロ17年目。毎年、「とにかく優勝がしたい。というかビールかけがしたい。優勝旅行に行きたい」と目標を掲げ、チームのために献身的にプレーをしている。勝負強さは折り紙つき。若手の多いマリーンズにおいて欠かせない勝利のピースだ。

「年齢的にも大きな怪我をしてしまうとなかなか難しくなる年齢。だからコンディションには人一倍、気を使っているように見える」と指揮官は評する。そして吉井監督の目についたのはルーティン。毎日を同じ流れで同じリズムで過ごしている事がベテランならではだと話す。

「意識をしているのか、自然なのかは本人に聞いていないからわからない。ただ、毎日やることが変わっていない。これはアスリートにとって大事なことで良い影響を与える場合もある。イチローもそうだよね。バント練習も含めてルーティンの一環なのかもしれない」とマリーンズファンの目に永遠に焼き付いたであろうミラクルアーチは日々の行いの継続が生んだと分析する。

 そして「あれは経験のなせる業かな。若い子は狙っても打てるものではない。元々、角中にはホームランを打つ力がある。本人にはその自覚はないかもしれないけど、ある。もちろん、いつも狙っているとおかしくなるから、彼ぐらいになると狙う場面を、色々な事を観察しながら決めていると思う。それがあの場面で出た」と絶賛。今後もマリーンズ必殺人として期待をかける。

 あの代打逆転本塁打は19年まで現役時代を共にした福浦和也ヘッドコーチも唸る一発だった。そして今年の角中の打席は非常に充実していると分析をする。

「高めのストレートだったよね。あれだけの実績のある選手とはいえ、しっかりと仕留めるのだから凄い。今年は軸がしっかりとしていて上半身と下半身のバランスもいい。今年はアウトになるにしてもいい当たりのアンラッキーなアウトが多かった。しっかりとボールを捉えている。だからオレは今年、結構いい感じだなと最初から思っていたよ。去年も決して悪くはなかったしね」と話をした。マリーンズで2000本安打を記録した男は、背番号「3」が再び充実期に入り、今後もチームを勝利へと導いてくれる存在になると確信している。