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1試合3発に見たポランコの真髄…頭に「P」がつくマリーンズの外国人は真夏に爆発する説

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/07/21
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 思わず目頭がジワッと熱くなる名勝負だった。

 7月16日の楽天イーグルス戦に2番・指名打者として出場したグレゴリー・ポランコ選手は1打席目にライトに特大のホームランをかっ飛ばすと、第3打席ではレフトに流してホームラン。さらに1点ビハインドで迎えた8回裏の第4打席でもライトに同点ホームランを放ち、1試合3発の大暴れを見せた。

 ところがマリーンズは直後の9回表に登板した益田直也が捕まり、痛恨の4失点。だが、それでも今年のマリーンズは簡単には終わらない。

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 安田尚憲が2点本塁打を放って反撃の狼煙を上げると、イーグルスはたまらず抑えの松井裕樹を投入。それでも食らいつくマリーンズ打線は、新加入の左キラー・石川慎吾が代打でヒットを放つと、前日にバースデー殊勲打を放った岡大海も連打。そして一発出れば逆転サヨナラの場面でポランコの第5打席が回ってきたのだ。

 球界を代表するクローザーの前にポランコは2球で追い込まれてしまったが、そこから粘る、粘る。これまでだったら明らかに手が出て、ブンッと豪快に空を切っていたであろう低めのフォークにバットがピタリと止まる。ポランコと松井裕樹の根比べ。球場の熱気が最高潮に達する中、ポランコは3球のフォークボールを見送り、気がつけばフルカウントになっていた。

 ポランコの圧倒的な威圧感と研ぎ澄まされた集中力。それは4発目を予感させるのに十分だった。

 結局最後はフルカウントからもボールになるフォークを投じてバットを振らせた松井裕樹に軍配が上がったが、ワイルドな大男がピタリとスイングを止めるたびにゾクゾクした。負けてはしまったが、今日のポランコが打ち取られるなら仕方がない。心からそう思える名勝負だった。

ポランコ ©時事通信社

不振を極めた春先も陽気に振る舞い続けたポランコ

 思えば春先のポランコにかかるプレッシャーは相当なものだったはずだ。

 ファンから愛されたレオネス・マーティンとブランドン・レアードという2人の長距離砲がチームを去り、移籍当初からその役割を一身に背負うことになったポランコ。初のパ・リーグということで対戦する投手も変わり、適応するまで時間がかかるのは当然なのに、ファンからは2人の全盛期と比較されてしまう。支配下登録された外国人野手がポランコしかいなかったのも、さぞ苦労したことだろう。

 開幕直後は調子が上がらず、4月末までホームランは1本のみ。打率も5月末の時点で.181と不振を極めると、ファンからは新外国人野手の補強を求める声や、マーティンの復帰待望論まで出始めた。

 それでもポランコは明るく振る舞った。広報のカメラが姿を捉えれば陽気にコメントを発し、1回表の守備開始前には笑顔でお決まりの“パワー!”ポーズを披露。YouTubeでは自身の応援歌を楽しそうに口ずさむ姿もアップされた。

 その陽気な振る舞いからは調子の悪さを一切感じさせない。むしろ打率は3割近く、ホームランはタイトル争いに絡むくらい打っていそうな雰囲気さえ漂わせていた。

 これはそのうち本領を発揮できるという自信の表れか。はたまた、性格はいいけど成績はイマイチ伴わないという“マリーンズ助っ人外国人あるある”か。

 いつになったら打ち始めるのだろうとファンはやきもきする日々が続いたが、交流戦でセ・リーグとの対戦が続いたあたりから、いよいよ調子が上向きに。交流戦終了時には打率を2割に乗せると、6月は月間打率.348と大暴れ。そして通算打率は.237まで持ち直し、本塁打はリーグ4位の12本。打点はチームトップの37と、すっかりチームの主砲らしい成績に整えて前半戦を終えた。

 復調を信じて起用を続けた吉井監督をはじめとする首脳陣も見事だが、プレッシャーを明るく跳ねのけたポランコも立派。打席の内容が良くなっているのは素人目にも明白だし、後半戦は間違いなくキーマンとなるだろう。

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