今年からマリーンズの打撃陣に目を光らせているのが現役時代、「漢」の枕詞でファンに親しまれた村田修一コーチである。ファンは敬意を表し「漢 村田」と呼んでいた。
様々な言葉で、漢 村田コーチは選手たちのハートに火をつける。古巣ジャイアンツを本拠地ZOZOマリンスタジアムに迎えての3連戦ではバットを指1本分短く持ち打席に立つジャイアンツの中田翔内野手、坂本勇人内野手らの打席の姿を見て、「あの姿を見て何も感じないのか!」と選手たちに話しかけた。
「最高のサンプルが目の前でバットを短く持ち打席に立つ姿があるのに、キミたちはなぜに、そんなにバットを長く持つ?」。この投げかけに刺激を受けたのが現役ドラフトでマリーンズに加入した大下誠一郎内野手。次の日からバットを短く持ち、打撃練習に励む姿に「野球人生は長く、バットは短くだよ」と名言を授けた。すると次カード、甲子園でのタイガース戦では移籍後初本塁打を放ってみせた。
村田コーチは現役時代、努力の漢だった
選手たちに、いつも口酸っぱく言うことがある。「ああだ、こうだと言う前にまずはやってみろ! 試すのが先。それでだめだったら、スパッとやめたらいい。最初から自分に合わないんじゃないかと思うのは止めた方がいい。まずは、やることだ。バットもそう。あれこれ悩む前に、まずは振ってみろということ」と話す。
5月に一軍昇格した池田来翔内野手はドラフト2位で即戦力として期待されながら、プロ1年目の昨年は2安打止まり。5月9日のライオンズ戦(ベルーナドーム)にて、一軍昇格即1番サードでスタメン出場が決まると、試合前に漢 村田コーチは「オマエはいつも悩んでいる。悩むのはもういいから、悩む前にバットを振れ」とアドバイス。初球から、そして3ボールから積極的に打っていく打撃スタイルで、プロ1号を含む3安打猛打賞で結果を出した。ベンチでは笑顔を見せる漢 村田コーチの姿があったことは言うまでもない。
村田コーチは現役時代、努力の漢だった。徹底的にバットを振り、研究を行い、努力という名の汗を流し、結果を出し続けてきた。だからこそ、技術論、気持ちの持ち方だけではなく、努力の大切さも説く。
「より上に行きたいと思っているなら、やるしかない。努力にやりすぎなんてない。努力に頂点はない。妥協なく、満足することなく、もっともっと追求して、もっともっと練習するべき」と言う。プロ通算1953試合に出場して360本塁打、1123打点の漢が言うのだから説得力がある。
打席は漢と漢の決闘場。勝負の場だ。だからインコースに腰が引けそうになる選手をみると「踏み込んでこそ漢」と声を大にして言う。
「打席では戦う姿勢を見せないと。逃げてはダメ。ボクシングのリングと一緒。われは腰を引いてファイティングポーズをとるボクサーを見たことがありますかという事。マウンドの投手は人生を賭けて家族のためにと思いっきり投げてくる。打者も同じ、魂で打ち返さないといけない。前のめりにならないといけない。オレは現役時代そうだった。当たってもいいという想いをもって打席に向かった」(村田コーチ)
ボールだけではなく、結果を恐れたりする選手たちには、「よくて3割だぞ。7割アウトでいいんだ。一般社会で7割も仕事に失敗したらどうなる? 散々、文句を言われるぞ。でも、この世界ではどうだ? 3割で賞賛される。スーパー選手と言われる。これほど恵まれた世界はないと思わないか」。村田はニヤリと笑いながら若い選手たちに話しかける。熱い言葉はどれも、選手たちを強く後押ししている。