私を救ってくれた泰史選手の言葉
もうすっかりかっこいい大人になっている彼だが、はじめからこうだった訳ではない。プロ野球選手としてベイスターズに入団し、一軍で思うような活躍ができなかった頃、少々投げやりになっていたこともあったという。ただ、それではダメだ、一軍で勝負できているんだ、一軍でうまくいっていないだけで、何を投げやりになっているんだ、と考え直すきっかけがあったという。それは同期の存在だと教えてくれた。
「まじでとんでもなく失礼なこと言うかも知れないけど、寺田さんとか齋藤(俊介)さんとかが練習してる姿見てたら、俺何腐ってんだって思ったよ。2人ともファームの時間が長いし、なんなら怪我で野球できてない期間も長くて、それでも絶対腐らず必死に練習してたやん? 少なくとも俺にはそう見えてて、それ見たら俺が戦っとる世界はとてもありがたいところなんやなって思えて。同期に2人がおってよかったなって思ったよ。この人らめっちゃ必死でくらいついとるから、負けてられへんなって! だからこの前の齋藤さんの記事もシェアしたし!」
この言葉に私がどれだけ救われたか、泰史選手には想像もつかないでしょう。私は結果こそ出なかったが、プロの世界にまでは辿り着いた。プロに入るまでは、練習すればするほど上手くなれたし、結果も出た。だからこそ、プロの世界では野球と本気で向き合えていたのか、たまに自問自答して止まらなくなる時があった。もちろん、私なりには全力を尽くしたつもりだが、結果が出なかった以上、なんともいえない心境ではあった。「死に物狂いでやってるかと言われると、そうじゃない人もいたと思う。でも2人はやってたように見えたけど」。泰史選手、ありがとう。何度考えても答えが出なかった私の迷いは、その言葉で浄化されていった。
「調子なんて乗れる訳ないやん!」
話は逸れてしまったが、彼は恵まれた世界で戦えていることのありがたさを実感したという。高校時代、選手を諦めざるを得なかった同級生のことも思い出した。誰のため? 何のため? 答えなんて一生見つからないだろうけど、間違ったステップを踏んでもいいから、もっともっと高みに近づいて欲しい。
最後に、代打として何度もチームを救ってきて、多少は調子に乗ってしまいそうなものだが、変わらずいられる秘訣を聞いてみた。
「調子なんて乗れる訳ないやん! 俺の代わりなんていくらでもおるからね。変わったって言われへんように、これからも頑張りますね!」
現在のベイスターズは、思い描いた理想通りのシーズンを過ごせているかと言えば、必ずしもそうとは言い切れないだろう。それでも、チームの雰囲気は悪くなく、むしろいい雰囲気で、決して馴れ合いではなく、いい緊張感の中戦えていると教えてくれた。意味のない嘘なんてつかない方がいい。泰史選手と話をしていると、つくづくそう思わされる。代打の切り札だろうと、この先レギュラーになろうと、彼の武器はバッティングだ。そのアイデンティティを信じて、これからも凄まじい打球をライトスタンドに差し込んで欲しい。
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