一軍に行きたいという思いを支える盟友・阪口皓亮との約束
今シーズンの櫻井は、ファームでここまでリリーフとして26試合を投げ、防御率3.26(8月21日現在)。復帰後の自分自身をどのように見ているのだろうか。
「登板間隔も配慮していただいて、今は肘も肩も問題なく投げることができています。復帰した当初は、もう少し出力が欲しい、投球を安定させたいという思いがあったのですが、今は球速もケガをする前とほぼ一緒になりましたし、順調だと思いますね」
故障の原因のひとつだった、フォームのメカニズムにおいてはどうだろうか。
「そこも反省を踏まえ、じっくりとやっています。身体の使い方も含めキャッチボールからコーチに見ていただいて、疲労がたまったときフォームが崩れてしまうなどアドバイスをもらっています。やっぱり第三者の目があることで、自分の身体への理解が深まっているところはありますね」
そして現在ベイスターズには、ベースボール・サイエンティストであるトレバー・バウアーがいる。バウアーが2019年にDOCK(ファーム施設)に見学に来た際、2年目だった櫻井は積極的に質問をしていたが、今もそんな感じなのだろうか。
「はい。(DOCKに)いるときは頻繁に訊くようにしていますね。バウアーは理論的ではあるんですけど、それ以外の部分も持ち合わせているので、科学的、非科学的の両面でいろんなことを知ることができるんです。あと、物事を決めつけたり、絶対にこうしたほうがいい、とも言わない。あくまでも、自分はこうしているよ、というスタンスなので、参考にできるものは参考にしていますね」
櫻井は今回のリハビリ中、空いている時間は自分の身体を知るために、栄養や肉体と動作の仕組み、トレーニング方法など座学に取り組んだという。そういう意味でバウアーの言葉や姿勢は、以前よりもスッと心に入っているのかもしれない。
あとは結果を出すだけ。以前のような焦りはないが、一軍への想いは膨らむばかりだ。
「いいボールを投げられているかもしれないけど、まだ一軍には上がれていません。ファームのピッチャー陣の争いに勝てていないということですし、頭ひとつ抜ける結果を出して、上から声が掛かるようにしたいですね。故障もなく投げられているのはいいことですが、やっぱり一軍で投げなければ意味はないんで、しっかりと次のステップを踏みたいと思います」
一軍に行きたい、という思いを支えているひとつに、盟友である阪口皓亮との約束がある。櫻井は、トレードが決まりDOCKに挨拶に来た阪口に次のような言葉を掛けたという。
「お互い頑張って、一軍で投げ合おう」
櫻井は、同期の阪口との日々を語ってくれた。
「寮では隣の部屋でしたし、よく食事にも行きましたね。野球の話ばかりではなく、私生活のことも含め、いろいろ語り合いました。とにかく熱いし、必死に野球に取り組んでいるピッチャー。今年は先発からリリーフになって、慣れないブルペンで苦しんでいる姿も見てきました。もどかしい思いもあっただろうし、そんな中のトレードの話でした」
そう言うと櫻井は、ひと呼吸おいてつづけた。
「トレードが決まって挨拶に来たとき、皓亮の顔を見たら、すごく晴れやかというか、覚悟が決まった表情だったんですよ。もう苦しんでいたときの皓亮じゃないんだって」
その精悍な表情を見て櫻井は、プロになってから日々を過ごした戦友は、違う世界へ行ったことを悟った。
「トレードになる2週間ぐらい前に、久しぶりにふたりで食事に行って、たくさん話をしたんですよ。深いプライベートなことも含めて。そういうのもあって正直寂しさはあるんですけど、今、皓亮はヤクルトの一軍で投げているじゃないですか。ああいう姿を見ると刺激になるし、すごくうれしいんですよね」
自分のことのように喜べること。それこそまさに“友情”だろう。あとは自分も再び、一軍の舞台へ向かうだけだ。
「ええ。追いつき追い越せじゃないですけど、皓亮に追いつけるように頑張りたいと思います」
いい笑顔。そう遠くない将来、緊張感あふれる一軍の舞台で、両者が投げ合う姿を見てみたい。24歳になった櫻井周斗のプロ野球人生は、まだまだこれからだ。
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