「指導者も最新の情報に付いていかないといけない」
東洋大から大学生・社会人ドラフト1巡目で入団した。同期入団の田中将投手よりも先にプロ初勝利を挙げ、2年目の08年は岩隈投手、田中将投手で始まった悪夢の開幕4連敗を散発4安打無四球完封勝利で断ち切る。それを皮切りにチームは7連勝した。09年は自己最多の13勝で翌10年も2年連続2桁となる10勝。イーグルス一筋9年。15年秋に戦力外通告を受けるとともに、功労者であったことからポストを用意されていた。
他球団での現役続行を模索するか、スタッフとして球団に残るか、心は揺れた。仙台市泉区にある2軍施設で、森山良二・二軍投手コーチ(当時、現ソフトバンク三軍監督)に「おまえは球団に残るべき人間なんだ」と声をかけられ、すっきりした。くしくも森山コーチも現役生活は9年だった。
スクールのコーチ時代は昨夏、高校野球の甲子園大会を初制覇した仙台育英(宮城)の高橋煌稀投手、尾形樹人捕手ら、今の高校球児らの指導に携わった。20年に再びユニホームに袖を通す。2軍の遠征には帯同しない育成コーチ時代は、制球難に苦しんでいた藤平尚真投手と向き合い、連日ブルペンへ。「10球中8球はストライク」などとテーマを決め、日が暮れるまで付き添った。
情報があふれる時代になり、動画などでメジャーリーガーらトップアスリートのトレーニング法などを取り入れることが容易になった。もちろん若い選手は敏感に反応し、まねしようとする。それ自体は否定しないが「『そうじゃないんだよ』『他にやらないといけないことがまだあるんだよ』と言っても、説得力がないと駄目。だから指導者も最新の情報に付いていかないといけない」と語る。
時代は投手の先発完投型から分業制へ完全に移行された。試合でも練習でも球数をコントロールする大切さは身に染みて分かる一方で「投げる体力は投げなければつかない」とも感じている。腰を痛めて2軍で調整していた同学年の岸孝之投手が4日連続でブルペンで100球以上を投げたことがあった。「こういう姿勢を若い選手は見習ってほしい」と強く感じたという。6月中旬に1軍に復帰してからの岸投手は、頼もしさもたくましさも一段と増した。8月11日、試合開始が1時間46分遅れたにもかかわらず、今季100試合目でチーム初となる完投を、5安打完封勝利で飾った。
開幕当初は最下位に沈んでいたチームは7月に8連勝を飾るなど盛り返してきた。永井コーチが1軍に来た時点で借金は4。勝率5割復帰も視野に入っている。
8月上旬、永井コーチは「なんか、2009年にすごい似ているんですよ」と、つぶやいた。当時は借金6で前半戦を折り返し、8月20日の日本ハム戦で借金を完済。その試合で7回1失点、無四球と好投したのが永井コーチだった。主戦投手の一人としてCS進出に貢献した経験から「選手がもう一踏ん張りできれば必ずいい方向にいく」と信じている。
自分のことで必死だった現役時代と、選手の成長を見守る指導者生活。1勝の重みはどれだけ違うのか。「選手だった時より、今の方が1勝することのうれしさが大きい」。かつての3本柱は、縁の下の力持ちとしてチームを支えている。
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