――軍隊の新兵訓練をテーマにした映画にはいろいろありますが、この映画を見て私が思い浮かべたのはフランスのクレール・ドゥニ監督がアフリカで撮った『美しき仕事』(99)です。ブラットン監督も『美しき仕事』がお好きだそうですね。
エレガンス・ブラットン 『美しき仕事』は大好きな映画です! クレール・ドゥニは、フィーメイル・ゲイズ(女性の視点)によって軍隊を見つめ、ダンスのように暴力を映し、男性間における性的な欲望を描いてみせた。普通、女性のいない空間では男性の欲望は湧き起こらないと思われていますが、彼女は、軍隊のように男性しかしいない閉じられた空間にも欲望はたしかに存在するのだと明言したわけです。僕はクィアな黒人としてこの映画にとても刺激を受けました。男性という生き物を官能的で美しい存在として描くことを、クレール・ドゥニによって許可されたような気がするんです。
ビジュアル的にも、スタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(87)と同じくらい、『美しき仕事』からは大きな影響を受けています。この映画を撮る際には、手持ちカメラによってフレンチの息遣いや動きをすみずみまで感じられるように意識しました。彼が体験している不安定な心理状態を、カメラの揺れによって表現したかったのです。
軍隊の擁護でも批判でもなく、「部隊」を肯定した映画
――この映画では、軍隊というシステムに対する批判と擁護的な視線が複雑に絡み合っているように感じました。フレンチは訓練において目を覆いたくなるような過酷な経験をするわけですが、一方で軍隊の一員になることで彼は未来への希望を掴んだとも言えるからです。監督ご自身の、軍隊に対する視線もやはり複雑なものなのでしょうか?
エレガンス・ブラットン 僕としては、軍隊の擁護でも批判でもなく、個人個人から成る「部隊」を肯定した映画だと考えています。軍隊そのものより、そこに属する個人個人こそが大切だと思うから。それに軍隊は、組織の下部にいる人々の努力によって全体を変えていける場所でもある。フレンチや僕のように、黒人でゲイである自分は弱者で生きる価値がないと思っていた人間が、本当の姿を見せることで周囲に影響を与えていく。そうして互いの絆が生まれてくるわけです。