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「小説のラストと自分のアニメのシーンが重なりました」

 小説ならではの叙述効果もあったという。

「予備知識無く読み始めると途中まで主人公の性別が謎なんですよね。導入部分の内容が内容なだけに、頭がバグって主人公を男のように感じていまして…。女性だと解った瞬間の衝撃も、主人公の人となりをさらに知りたいと思わせるフックになりました」

 アニメーション作品からの影響を感じられる部分は? と問うと、ヤマサキ氏自身の作品にも言及した。

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「ある場面でのやり取りの中で『ミサトさんぽく言えたらいいのだけど』というト書きがあって、『これエヴァンゲリオン見てない人はわかんないよね。でも、いい。めっちゃ伝わる!』と膝をうちました。

 あと、これは私の個人的な印象なのですが、小説のラストシーンで『光の向こうに蓮の花が咲く。泥の上に咲く涅槃の花だ』という語りに、自分が監督をしたアニメ作品『薄桜鬼-黎明録-』で死を覚悟した芹沢鴨の独白シーンが重なりましたね」

「薄桜鬼」公式サイト-より

 そして、最後に市川さんへのメッセージを聞いた。

「彼女が受賞会見で言った『芥川賞でも重度障害者の受賞は初でしょうが、どうしてそれが2023年にもなって初めてなのか。それをみんなに考えてもらいたい』という言葉がずっと心に響いています。

 ALSの舩後靖彦議員が読書のバリアフリー化を発信されてますが、市川さんも作家としてその世界のトップランナーですね。浴びた光を更なる力に変えて頑張ってほしいです。

 彼女がアニメ作品から動力を得ていたと知れたことは、私の励みになりました。同じ空の下、いち読者として彼女を応援しています」

 2つの才能が出会い、文学界に新たな歴史の一ページが刻まれた。

 現在配信中の「週刊文春電子版」では、「市川沙央『ハンチバック』10の秘密」と題し、彼女が芥川賞作家になった経緯を、多数の関係者への取材を元に詳しく報じている。