文春オンライン

戦前の新聞で、ネタを求めてナンパ待ちするモンスター企画“貞操のS・O・S”  新卒の1日目の女性記者が囮に…

source : 提携メディア

genre : ニュース, 昭和史, 社会

note

女優扱いしておだてる30歳前後の男性

第16回は電車の中から始まる。上野行きの省線電車に乗っていると横浜駅で飛び込んできた酔っ払い。好子に目をとめて手招きや変顔で歓心を買おうとする。新橋で降りるとついてきて、変なことはしないと約束して高級おでんの小料理屋に行く。男は最初こそ「妹をつれてきたよ」などと言っていたが、杯を重ねるうちに「今夜は僕のいう通りになり給えな」などと言って抱きすくめるので、好子は即座に店を出た。

歩いていると、今度は道を尋ねる30歳前後の男に捕まった。「失礼ですが、あなたは、京都の阪妻(ばんつま)プロダクション(*9)にいらっしたでしょう?」と女優扱いをしてくる。人違いだというと自分は映画関係者に知り合いが多い、あなたを紹介することもできる、これから谷津(やつ)(*10)のプロダクションに行ってみよう、と強引に好子を電車に乗せた。

しかし、乗ってみると行先は市川真間だという。男のなじみの旅館があるらしい。着いたのは午前1時半、2、3軒も断られてやっと入った一流旅館で、どうやって逃げようか考える好子。

ADVERTISEMENT

(*9)阪妻プロダクション 端正な顔立ちの二枚目として人気を誇った、歌舞伎俳優の阪東妻三郎が立ち上げた、日本初のスタープロダクション。
(*10)谷津 千葉県習志野市谷津。当時、坂東妻三郎が設立した「大日本自由映画プロダクション」の所在地。

椅子を蹴り上げてナンパ男を一喝

支度ができたという女中に好子は突然「ね、あなた、今夜はお家へお帰りになって、あすの朝、十時ごろにでもいらっしてよ、ね」「さ、私も、お玄関までお送りしますわ」「じゃ、あすはきっとね! 待っていらっしゃいよ」と矢継ぎ早に言って男を追い出し、翌朝十時を待たずに「昨夜の人がきたら、どうぞよろしくっていって頂戴ね」と女中に言伝(ことづて)して帰宅したのだった。

第18回は隅田川にて。夜八時ごろに川面を眺めているとベンチの隣りに座って話しかけてくる男が。とっさに女中奉公になり切る好子、休日に浅草をぶらついた帰りだと話す。男はすかさず、もっと稼げる仕事があると言うが、「まず、亀戸や玉の井ってところには、銘酒屋というのがあってね、お客のお酒の世話さえしてりゃ、一晩のかせぎ高が、まァ十円は下るまいってんですよ」と言う。亀戸、玉の井といえば最下層の私娼窟である。