マスク生活2度目の春を過ごす、32歳・漫画家のナツコ。母親は5年前に他界し、父親と関西の実家で2人暮らし。ドーナツ店でアルバイトをしながら、「ツユクサナツコ」名義でネット上に漫画を掲載して日々を過ごしている。
ナツコが漫画で描くのは、「いま」だ。例えば、アルバイト先に来た優しいおじいさんのこと、コロナで大学生活がままならないバイト仲間のこと、繋がらないワクチンの予約電話のこと、戦争のこと……。社会の不平等にモヤモヤし、誰かの何気ない一言に考えをめぐらせながら漫画を描くことで、世界と、誰かと、自分と向き合い、“わかり合える”ことの喜びを噛みしめる。
イラストレーター・益田ミリさんが今年6月に上梓した漫画『ツユクサナツコの一生』(新潮社)は、淡々と日々を過ごす主人公のナツコと、そのナツコが描いた漫画を通して、日常の中にある「大切なもの」に気づかされる作品になっている。ここでは、本作より一部を抜粋してお届けする。