「東北のファンのみなさんに楽しんでもらうために、笑顔になってもらうために、持っているベストを尽くしたいです」
東北の宝・プロ17年目の岸孝之選手がラジオで語った言葉である。東北楽天ゴールデンイーグルスがある宮城県仙台市出身の岸選手は、今シーズンすでに2つの大偉業を成し遂げている。1つ目は4月16日の福岡ソフトバンク戦でプロ野球史上23人目となるNPB通算2000奪三振をマークした。本人は「(2000奪三振を)達成できてよかったです。でも僕の場合、そういう記録はすべてキャッチャーのおかげだと思っています」とコメントした。
2つ目の偉業は、5月2日の千葉ロッテ戦、NPB史上51人目となる通算150勝を達成した。しかも地元・仙台で掴んだ感動的な勝利となった。今回は宮城・仙台が生んだスーパースター・岸孝之選手をご紹介させていただきたい。
「サインペン持ってたりしますか?」
昨シーズンの終わり、忘れもしない9月29日の出来事である。
その前日の28日は本拠地で150勝をかけた、昨シーズンラストの岸選手の登板日だった。埼玉西武・今井達也選手との投げ合いで、両投手が8回を投げ切る好投が光ったが結果0-1で楽天イーグルスは惜敗した。
翌日、グラウンドで試合前練習を終えた岸選手がスタンドにいた自分のところにきて「サインペン持ってたりしますか?」と尋ねた。取材バッグの中から取り出そうとすると、同時に岸選手もスタンドに入って、ペンを手渡すとボールにサインと日付、そして「応援ありがとうございます」と書き入れた。するとスタンドの上段の方まで一歩一歩登り、その日の来場者のドリンクホルダーにそのサインボールをスポッと入れたのだ。
岸選手は「今年何とか150勝挙げたかったけど叶わなかったので、応援してくれた人にちょっとでも喜んでもらえたら」と話した。その日の観戦に来てくれる人に少しでも喜んでもらうために、自らが仕掛けたサプライズだったのだ。その言葉を聞いたとき、なぜだか胸が熱くなってグッときた。なぜなら本人は150勝を逃して相当悔しかったはずなのに、次の日に支えてくれているファンを思い、その席に座った人を喜ばせようとする姿が実に眩しかったからだ。
とても真心がこもっていた。その翌日は則本昂大選手を誘って練習終わりに観に来られる方へサプライズを仕掛けた。