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嶋基宏コーチが忘れられない藤田さんの言葉

「藤田さんに出会って、野球はもちろん、それ以上に人として未熟だった僕を変えることができた。藤田さんに出会ったから」

 そう語りながらVTR中に涙をみせたのは嶋基宏コーチだ。そしてその言葉には心当たりがあった。彼がイーグルスを去る最後の東北でのファンミーティングにゲスト出演した時の事、ひとりひとりのファンに真摯に対応する姿に胸を打たれた。打ち上げの席で、今日のファンに対する振る舞いに感激した事を伝えた。

「かみじょうさん、それは全然違うんです」

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 若い頃はサインを断る事もしばしば。そんなある日、ロッカールームで藤田さんから言われた言葉が忘れられないという。

「嶋、さっきサインできたやろ? なんで断る? サイン下さいなんていつまでも言うてもらえない。俺たちは現役やめたらただの人や。ファンに応えるのがプロ野球選手や。当たり前やないぞ」

 あの日の言葉を思い出していたのかもしれない。

楽天時代の藤田一也(左)と嶋基宏

最後の言葉で救われた楽天ファンもたくさんいたんじゃないかと思う

 1月、京都で行なわれる自主トレを観に行くのが大好きだった。そこには小深田大翔や山﨑剛など、自分のライバルになる内野手のほか、他球団の内野手も多くいた。その事についてたずねると、

「ここに来てる全員、野球うまくなったら嬉しいやないですか!」

 僕たちファンだけでなく、その人柄にプロ野球選手達も魅せられていた。

 VTRが終わるやいなや、球場全体の大合唱がはじまった。

待ち望んでいた君の勇姿を
勝利へRESTARTハマの風を浴びて
かっとばせ! 藤田!

レッツゴー藤田一也 勝利を目指して
進め、行けよ、迷わず ハマの牛若丸
かっとばせ! 藤田!

 何度も何度も続く応援歌、ファンの想いをひとりで浴びつづけ、涙する姿にこちらも涙が止まらなかった。

「横浜DeNAベイスターズのユニフォームで引退できること、こんな幸せなことはありません!」

 引退の挨拶、最後の言葉で救われた楽天ファンもたくさんいたんじゃないかと思う。最後に、僕たち楽天ファンを家族のようにあたたかいと言ってくれてありがとう。東北で過ごした9年間を財産だと言ってくれてありがとう。東北楽天ゴールデンイーグルスを日本一に導いてくれて本当にありがとう。藤田一也選手19年間本当にお疲れ様でした。

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