15時ごろに関内駅に着いた。ベイスターズ通りにあるラーメン屋さんで腹ごしらえをして、コンビニで缶ビールを買った。横浜公園のベンチに腰をおろして「プシッ」。目の前では小さな子供達が遊具で遊んでいる。このまま平和に何もなければいいのにという変な気持ちを断ち切るようにビールを飲み干し、球場沿いにあるグッズショップに入った。「THANKYOU ushiwakamaru」と書かれた白いTシャツを手に取りレジを待っていると、前にいた男性がくるりと振り返った。

「僕も最後に観に来ました」

 TOHOKU RAKUTENと書かれたTシャツを身にまとい、その手には僕と同じTシャツが握りしめられていた。今日は横浜DeNAベイスターズの藤田一也選手の引退試合を観るためにハマスタにやってきた。ベルーナドームでの西武戦ではなく、こちらに来たファンもたくさんいたんだと思う。なぜなら、楽天を日本一に導いてくれた男の最後の花道なのだから。

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 カバンには楽天時代の背番号6のユニフォームを持参したが、今日は違うような気がして着るのはやめた。先程買ったばかりの引退記念Tシャツに着替え、球場に入る。「ありがとう横浜!!」と書かれた藤田一也ポスターが至るところに貼られている。多くの楽天ファンはそのポスターの言葉に大きく頷けるのではないだろうか。

©かみじょうたけし

松井監督の語り方がまた凄く良かった

 2021年シーズン後半、そろそろベテラン藤田選手の力が必要だと考えていた。ケガもなく、2軍ではしっかり成績を残していたにも関わらず、結局一度も一軍に上がる事がなかったのが答えだった。その年の10月4日に戦力外通告。しかし、古巣横浜がその力を欲した。東北楽天ではなくとも、彼が現役を続ける事がとても嬉しかった。

 試合はDeNAの投手陣がヤクルト打線に打ち込まれ、7点ビハインドでその時が来た。9回表ワンアウト一、三塁の場面でショートの守備に背番号23が駆け出した。球場を包む藤田コールに興奮した。打球は飛んでこなかったが、あの場所にいる藤田一也をしっかり目に焼きつけた。そして9回裏の打席ではユニフォームで何度も顔をぬぐうシーンもみられた。

 引退セレモニーがはじまる。横浜スタジアムのビジョンには三浦大輔監督や石井琢朗氏、当時の近畿地区担当スカウトの宮本好宣氏まで、さらには楽天で共に二遊間を守った松井稼頭央監督からは、

「二人で作るゲッツーが一番の思い出かもわかんないです。あれはねぇ……ほんっとに嬉しかったすねぇ」

俺たちにしかわかんねーよな?的な松井監督の語り方がまた凄く良かった。