今年のドラゴンズと言えば、松坂大輔。5年連続Bクラスで明るい話題が少なかったシーズンオフ。そこに突如舞い込んできたビッグニュースが平成の怪物の入団だった。

 キャンプは初日からヒートアップ。「クララが立った!」と言わんばかりのお祭り騒ぎ。松坂が走った! 投げた! 笑った! 背番号99が移動するたびにファンもマスコミも民族大移動。私もその1人だった。2月7日までの取材期間中、松坂の一挙手一投足を追い、テレビやラジオでレポートした。

 しかし、直接ロングインタビューをしたり、練習後に食事をしたりする機会には恵まれず。そうなると、やはり気になるのは性格だ。「本当はどんな人なのか」。各選手に尋ねると、異口同音に「いい人です」と返ってくる。さすがスターだ。キャンプ中盤以降も注目はやはり右腕に集中する。報道陣シャットアウトのブルペン、突然のノースロー、練習試合登板。今年の北谷(ちゃたん)キャンプは寝ても覚めても松坂だった。

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大野雄大(左)と松坂大輔(右) ©文藝春秋

赤坂広報が松坂と過ごした1ヶ月

 3月2日。ナゴヤドーム。午前10時。約1ヶ月ぶりに選手が名古屋に帰ってきた。焼けた肌に汗が滴る。全体練習だったこの日、私はどうしても話を聞きたい人物がいた。彼の名前は赤坂和幸。28歳。2008年に浦和学院からドラフト1位でドラゴンズに入団し、投手としてデビュー後、野手に転向。一時は育成選手契約になりながらも這い上がり、一軍で勝負強い打撃を見せた。去年、現役を引退し、今年から球団広報として働いている。

 通常、キャンプ中の広報の仕事は様々な選手の取材対応。しかし、赤坂さんはほとんど松坂につきっきりだった。松坂が報道されたテレビ画面にしばしば映っていたのも事実。球場への送迎、サイン会の段取りなど松坂に寄り添う2月を過ごした。赤坂さんこそ「松坂の裏も表も知っている重要参考人」と思い、1塁ベンチ前にいた彼に近付いた。

「松坂投手はどんな人ですか?」。単刀直入に尋ねた。「まず、オーラがあります」と赤坂さん。

「クラスの人気者っていたじゃないですか。男子でも女子でも。華やかで周りがついつい見入ってしまう。そんな人です」

森繁和監督の隣で恐縮する松坂大輔 ©文藝春秋

 投げる姿、走る姿、その全てが「格好良かったです」と惚れ惚れしていた。さらに赤坂さんは松坂の気配りについても語り始めた。

「サイン会はだいたい30分で打ち切るんです。当然、ファンの方にも事前に告知します。でも、いつも松坂さんはできるだけ全員にサインをしたいと言っていました。耳元で『もう終わります』と言っても、『大丈夫だ』と」

 スターは目の前の老若男女にペンを走らせた。「あと、個別の取材もほとんどOKでした。断ったインタビューはないと思います」と赤坂さん。「時々、体調が優れない時に囲み会見を中止したり、時間をずらしたりしましたが、その時は『赤坂、ちゃんと皆さんに理由を伝えてくれよ』と言うんです」とマスコミへの神対応についても打ち明けた。松坂を語る時の赤坂さんは口角が上がり、目尻が下がる。実に嬉しそう、楽しそう、幸せそう。濃密な1ヶ月を「あっという間でした」と振り返った。