『これでいいのか』と答えのない問いを繰り返すばかり
「歌舞伎の御曹司は歌舞伎役者の父親と四六時中、家にいるときも芝居の話をしていたりする。そんなお家ばかりではないかもしれないけれど、基本的に日々の生活に歌舞伎が組みこまれています。
眞秀の父親はフランス人ですし、稽古が終わったら『サッカー見ようよ』とか『野球やろう』という感じだから、こうなるとやっぱり御曹司にはかなわないな――と不安に思ったりしました。それを眞秀に言うわけでなく、『これでいいのか』と何度も自問自答しました。答えのない問いを繰り返すばかりで、今、振りかえるとすごく変な精神状態だったと思います」
みなさんからの声かけに涙が出そうな日々
そうしているうちに、いよいよ歌舞伎座での稽古が始まる。
「私は入れなかったのですが、その歌舞伎座での最初の稽古で、眞秀は本当にできなかったらしいんです。父(七代目尾上菊五郎)には『声も出ていないし、何なんだ』と、いきなり怒られた。それまでの稽古で父に強く言われたことは一度もなかったので、『ああ、みなさんの前できちんと言ったんだ』と思いました。
このお稽古の前に、市川團十郎さんから電話がかかってきました。『眞秀は踊りをもう少し真剣にやったほうがいいよ』と、言ってくださったんです。尾上松緑さんはLINEで『大丈夫だよ。眞秀なら絶対にできるよ』と励ましてくださって。眞秀よりも私が辛そうにしているのをわかってくださって、みなさんが声をかけてくださるのが本当にありがたくて、涙が出そうな日々でした」
このほか、寺島家の子育てや、寺島さんが初めて目にした父・七代目菊五郎の姿などについて語ったインタビュー「梨園の母ドキドキ奮闘記」は「文藝春秋」2023年11月号(10月10日発売)と「文藝春秋 電子版」(10月9日公開)に11ページにわたって掲載されている。
梨園の母ドキドキ奮闘記