言葉はなくても、「思い」は伝わる。

「すみちゃん」に、なんとしても二桁勝利を――。古賀悠斗の2安打から、そんな気持ちがひしひしと伝わってきた。

 10月1日のロッテ戦は、埼玉西武ライオンズの今季141試合目だった。2年目の左腕、隅田知一郎にとっては、9勝9敗で迎えた22試合目の先発だ。

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 これが今季の最終登板。勝てば、大台の10勝に乗る。それは隅田本人も、バッテリーを組む古賀も重々承知していた。

 隅田は言う。「古賀も特別な試合だと感じていたのかな」。その日の試合前、古賀の様子が微妙にいつもと違うなと感じた。普段はおちゃらけながら、「きょうもいこうぜ!」などと言ってくる相棒の口数が、心なし少ないような……。そんな気がした。

 ただ、いざ試合が始まれば、古賀は古賀だった。同期入団で、同じ大卒2年目。コンビとして試合を重ねるごとに、息が合ってきた手応えがある。

「お互いに少しずつ余裕も出てきて。ここはカーブを投げたいなと僕が思った場面で、カーブのサインが出たりするようになったんですよね」

 一、二回は三者凡退。三回に一発を浴びたが、五回に味方打線が追いついてくれた。

 古賀の思いがバットにうつったのは、1-1で迎えた六回だった。1死二塁、カウント2-2からの5球目。外角の直球をとらえた打球は、強いライナーで右前へ飛んだ。隅田に勝利投手の権利をもたらす、勝ち越し点だ。ベース上で古賀は、会心の笑みを浮かべながら拳を高々と突き上げた。

 あとはリードを守るだけ、のはずだった。

隅田知一郎(右)と古賀悠斗 ©時事通信社

ともにつかんだ、飛躍へのきっかけ

 だが、クライマックスシリーズ(CS)進出を争うロッテ打線も、簡単には終わってくれない。隅田は七回、2死走者なしから連打と四球で満塁とされ、代打の岡大海に、逆転の2点適時打を浴びてしまった。

 西武ベンチは動かない。10勝目を奪いとってこいと言わんばかりに隅田を続投させた。左腕は8回を3失点で投げきり、攻撃に望みをつないだ。そして九回、無死から古賀がこの試合2本目の安打を放った。

 結局、後続が倒れ、逆転での白星はならなかった。しかし、1勝10敗だった昨季から、隅田は大きく成績を伸ばした。

 最後の試合が終わると、隅田は古賀に「1年間、ありがとう」と伝えた。古賀からはいつも通り、「(活躍は)すみちゃんの実力よ」とかえってきた。

 1年目は26試合の出場にとどまった古賀にとっても、飛躍への大きなきっかけをつかんだシーズンだった。100試合に出場し、盗塁阻止率4割1分2厘は、2位以下を5分以上も引き離してリーグ1位だ。

 2人には、ドラフト直後にかわした「約束」がある。