2023年パ・リーグで、僕の愛する埼玉西武ライオンズは5位でシーズン終了。

 今季は日米通算2705安打を放ったレジェンドOB・松井稼頭央さんの監督初年度で、リーグ優勝、日本一を期待したライオンズファンは多かったに違いない。僕も大いに期待したが……結果は優勝には程遠かった。

 ライオンズに足りないものは何だろう? ヒントの一つでも分かればなぁーー。

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 ライオンズ応援番組MCの僕は定期的に選手インタビューをしている。一軍に昇格したばかりの若手選手へのインタビューでは、ファームでどんな取り組みをしてきたかをよく聞く。そんな中で気になるワードがあった。

「バイメカさんのおかげで」

「バイメカさん達からアドバイスを頂いて」

 と、「バイメカ」という言葉をよく耳にした。

“元プロ投手”をバイメカに配置

 調べると正式名称はバイオメカニクスで、動作解析をする部門とのことだ。ライオンズでは2021年シーズンオフに創設された。

 他球団では研究者だった人などいわゆる専門家が携わるケースがほとんどだが、ライオンズではその道のスペシャリストに加え、阪神でもプレーした榎田大樹さん、昨年限りで引退した武隈祥太さんと“元プロ投手”も所属している。

 今夏、水上由伸投手にインタビューした時にも「バイメカ」というキーワードが出てきた。昨年新人王の水上投手は今年さらなる飛躍を期待されたが、開幕直後に不調で即ファームへ。3カ月の調整を経て一軍に戻った7月、インタビューで復調の要因をこう話していた。

「バイメカさんに昨シーズンの良かった時の映像見せてもらい、今シーズンとの違いを教えてもらいました」

 さらに聞くと、出てきたのが二人の名前だった。

「榎田さんにはピッチングフォームで左足を上げた時の目線など、細かい部分の指摘をしてもらいました」

 一方、武隈さんには「お前がいると二軍の選手の邪魔になるから、早く一軍に行けよ!」と愛情たっぷりの“武隈節”で激励されたという。

 いつも優しい笑顔の榎田さんは理論派かつ、おおらかな性格で現役時代から後輩たちに慕われていた。

 対して武隈さんは太々しい態度を取りながらも、基本的には真面目。ただ照れ屋な一面があるので、本心とは裏腹な態度を取る。そんなキャラクターで年下の選手とも絶妙な距離感で付き合っていた。

 近年、ライオンズ投手陣は安定したパフォーマンスを見せているが、その裏には「バイメカ」の存在があるのではないか。ここを掘れば、来年優勝するためのヒントが見えてくるかもしれない。そう思い、榎田さん、武隈さんに取材を申し込んだ。

武隈祥太さんと榎田大樹さん ©堀口文宏

田村伊知郎の飛躍の裏に…

「おう、早くやろうや!」

 球団が事務所内に用意してくれた取材場所へ最後にやって来た武隈さんは、相変わらずの太々しい挨拶だった。これでこそ武隈さんだ(※取材の約束時間前にはしっかり到着しています)。

 まず聞いたのは、バイメカとして二人が行っている業務内容について。

「とりあえずピッチャーとコーチの手助け。ピッチャーを見て練習や試合の映像を撮り、選手と直接というよりコーチと話す感じですね」(榎田さん)

「業務内容がよく分かっていなかったので、榎田さんの背後にくっついて学んでいました」(武隈さん)

 二人とも、選手に対して「大した事してあげてませんよ」みたいな感じで淡々と業務内容を語った。僕が聞く限り、バイメカに助けられた選手は多いはずなんだけど……。

いつも笑顔の榎田さん ©堀口文宏

 続けて、アドバイスがきっかけで今年飛躍した若手選手について。

「タム(田村伊知郎投手)は去年からずっと見てますけど、自分がアドバイスした事で成績が良くなったかは分からないから……」(榎田さん)

「自分達が言ったことで良くなるきっかけになっていたらいいなと思うけどねぇ……。選手を混乱させないよう、コーチ達と違う事を言わないように気をつけてますよ」(武隈さん)

 お二方とも物凄く謙虚。大卒7年目の田村投手は今季後半、勝ちゲームの終盤に起用されるほど質の高い球を投げていたから、何か飛躍の要因があると思うんだけど……。

 榎田さん、武隈さんともにもともと多くを語らない性格だが、“裏方”となったことでその色が強まっているのかもしれない。

 でもーー。僕にはライオンズが来年優勝するために足りないものを探る使命がある。二人が多くを語らないだけで、バイメカの貢献が何かあるはずだ!

 そこで榎田さん、武隈さんをバイメカに推薦した人物に話を聞くことにした。