シーズンを終えて、ようやくこの選手に話を聞くことができた。東克樹である。

 山本祐大とともに受賞したベストバッテリー賞。私情を挟むと、同期の2人、それも同郷の投手、同じ独立リーグからきた捕手がこの賞を受賞したとなると、適切な言葉が思いつかないくらい嬉しかった。

 しかし、ここまでの道のりは簡単なものではなかった。「まあ寺田やから話すけど」と、受賞に至るまでの苦難、心境、そして今後の展望をありのまま聞かせてくれた。

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東克樹(左)と山本祐大

普通の感性を持つ彼が活躍できた理由、周りと差別化できた理由

 ベイスターズでやばい球を投げてたのって誰?と聞かれるたびに、私は東克樹の名前を答えていた。彼が7割くらいで放るボールは、私の全力投球を軽く超えていった。彼が放つボールはスズメバチの羽音のような音をたてながら私のグローブを突き刺した。今回は東と、東を支えた2人のお話。

 東克樹。彼を一言で形容するならば、ギャップ萌え。かわいらしい顔、私より低い身長、イタズラ小僧のような振る舞い。数年前のオールスター期間の2日休み、地元が同じ私達は一緒に帰省し、一緒に横浜に戻ってきた。横浜へ戻る日に再び合流した際、彼はお土産としてたこ焼きをくれた。からしだらけのたこ焼き。何も知らずそれを食べる私を、ニヤニヤと眺めている。そんな男である。しかし、野球となると話は別で、誰よりも使命感を持って全力を注ぐ。今シーズンギリギリのところで戦っていた彼を知る身としては「よく頑張ったな」と伝えずにはいられなかった。「自分でもそう思う」と素直な心境を教えてくれた。そして、その一つ一つを詳細に語ってくれた。

 まずフォームを変えたことで得られた効果。少し腕を下げるフォームに変えたことで、ストレートが根本的に変わったのだ。以前のフォームのストレートと比べると、軌道も変わり、それがデータとしてもはっきり現れた。スライダーの曲がりも大きくなり、ストライクからボールに投げられたことが良かったと教えてくれた。「サイド気味に変えたってことは、俺(筆者、元サイドスローの投手)に憧れたってことやんな?」と聞くと、「んなわけあるか(笑)」と一蹴された。冗談はさておき、ここまではある程度見ただけでわかるような内容かもしれない。しかし、最多勝投手東は一味違った。

「ありきたりなこと書いても、ヒットボタン押してもらえへんやろ?」と、私のことを気遣って話を続けてくれたのだ。もちろん私はヒットが欲しくて記事を書いている訳ではないが、その言葉に甘えてさらに詳しく話を聞かせてもらった。

同期で同郷の東克樹投手と筆者 ©寺田光輝

 精神的にきつい一年だった。特に、後半戦は絶対に負けられない試合が続いた。「後半戦からカード頭での登板が増えていって、相手もエース級が来ることが多い。1点もやれへん状況の中で投げるのは精神的にきつかったけど、やりがいも大きかったな。その中で勝ちを取れたのは財産になったと思う」。等身大のその言葉に、私は少し安心した。飄々としているように見える彼も、至って普通の感性を持っているのである。そんな普通の感性を持つ彼が活躍できた理由、周りと差別化できた理由をあえて聞いてみた。「身長がほとんど同じなのに、こんだけ活躍する東と全く何もできなかった寺田の違いは何やと思う?」と問うと「器の大きさやろ」と笑って返事をくれたので、何においても器の大きさとは、あって損はないものだと心に刻んだ。

 このインタビュー中にも感じたことだが、東はオンオフの切り替えが上手い。この要因について聞いてみると、家族、とりわけ奥様への感謝を話してくれた。「ご家族の存在は大きかったか?」という趣旨の質問に「ありきたりな話になるから、書かんでええんちゃう?」と笑いながらも「家族がオフを作ってくれるから、野球にもっと集中できるようになったかな。今シーズンは特に、子育ての部分とかで。遠征で家をあけても、『頑張ってね。絶対勝てるから』って言って送り出してくれた。ほんまありがたいと思う」これは東の心からの本音なのだろう。やはり語らずにはいられなかった家族への感謝の気持ち。誰かの支えを自覚している人間は、どこまでも強く優しくなれるものだと、そう思わせてくれた。