「このままでいい。明るいキャラクターのまま飛び込んできてくれれば、すぐチームに馴染む」

 10月26日のドラフト会議で3球団競合のくじを引き当て、終了直後ENEOSの合宿所を訪れた三浦大輔監督から度会隆輝選手へと送られた言葉は、会見場を暖かい空気に包みました。

 これほど、笑顔にあふれたドラフト1位指名選手に出会えたのは久しぶりです。

ADVERTISEMENT

三浦監督と度会選手 ©tvk

来シーズン青く染まった横浜スタジアムのスタンドを沸かせるための第一歩

 その半月前の10月10日、ベイスターズが横浜スタジアムでクライマックスシリーズ(CS)直前に行ったENEOSとの練習試合。1番打者としてサードとライトを守った度会選手は初球から積極的に振り、強い打球を連発。試合後の三浦監督も「良い打者だな」と。

 横浜高校の大先輩、鈴木尚典コーチは「練習中少し話せました。ドラフトの運命はわかりませんが、度会選手本人は叶うならばベイスターズに来たいと話していましたよ。積極的なスイングのリードオフマンで内外野の両方ができる。今のチームに合うのでは。」と振り返ってくれました。スタッフからも「明るくて、良い意味で少々やんちゃな魅力も。チームに欲しいキャラクターですね」という声が。

 2018年100回目を迎えた夏の大会。横浜高校1年だった度会選手は背番号14ながら神奈川大会と甲子園を合わせ11打数8安打と15歳以下日本代表も経験した非凡なセンスを発揮。当時私が実況中継で使用した資料に「横浜高校は小さな頃から憧れていました」「自分なら打てるという気持ちを大事に」「声援を受け、思い切りプレーをしたい」という前向きな、本人の言葉が残っていました。

 高校2年の夏は県立相模原高校に神奈川大会準々決勝で無念の終盤逆転負け。

 高校3年夏はコロナ禍で夏の全国大会がなく、神奈川大会だけが行われベスト8。2020年は、晴れの舞台が大きく制限されたことで各球団のスカウトの方々からも「特に高校3年生の評価が難しく慎重になってしまう。高校2年生以降の判断材料が少ない」というお話を伺いました。難しい環境の中、横浜高校の同級生から松本隆之介投手はドラフト3位でベイスターズに、木下幹也投手がジャイアンツの育成4位で指名を受けました。この年指名がなく無念の思いを経験した度会選手に、もう少し輝ける場があったなら状況が違っていたかもしれません。

 それでも、ENEOSに進んで力を着け去年の都市対抗ではMVPにあたる橋戸賞を手にした度会選手は、悔しさから3年を経て思い描いたチームとの練習試合を戦い、最高のアピールをして運命を切り開きました。

 指名直後に見せてくれた喜びの涙と天真爛漫な笑顔は、来シーズン青く染まった横浜スタジアムのスタンドを沸かせるための第一歩です。

 ちなみに、現在スワローズでアカデミーヘッドコーチを務める度会選手のお父さん博文さんには選手と広報担当時代を通じてお世話になりましたが、とても素敵な人柄。指名挨拶に訪れた三浦監督がENEOS合宿所の応接室に招かれた際、博文さんは少しタイミングが遅くなり遠慮したのでしょうか、ドアの閉まった部屋の前で控え目に立っていました。室内では三浦監督と度会選手がお父さんの到着を待っていたと想像します。応接室を出ようと度会選手が扉を開けた瞬間お父さんを見つけ「いました! 外で待っていました」と。改めて博文さんも一緒に応接室で挨拶が行われる、微笑ましい一幕がありました。