ときに軋轢を起こしながらも、人類規模のイノベーションを進めてきたイーロン・マスク。しかし過去には、その猛烈な経営スタイルが社内の反感を買い、クーデターを起こされてCEOを解任されたことも。発売されるなり20万部を突破し、テレビやネットでも話題沸騰の公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著 井口耕二訳)から、痛恨エピソードを紹介する。
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大好きな文字である「X」を冠した会社XドットコムのCEOだったマスク。2000年にはピーター・ティール率いる電子決済システムペイパルの運営会社と合併し、ペイパルCEOとなった。Xドットコムという会社名こそ譲ったが、マスクは変わらず壮大なビジョンを掲げていた。
すなわち、銀行業界全体を揺るがすようなソーシャルネットワークを作るというものだ。
それゆえ、あるときはマスクと部下とで、ニューヨーク市長を退任したばかりのジュリアーニに会いに行った。銀行業界へ切り込むために政治的なフィクサーを求めていたからだ。しかし、執務室に入った瞬間、失敗したと悟った。
マスクの部下はこう振り返る。「ギャング映画かなにかかと思ってしまいました。山のようなアホに囲まれてるし、ジュリアーニも、シリコンバレーのことなどまるでわかっていません。なのに、本人もその取り巻きも、懐を肥やす気だけは満々なんです」。
報酬に会社の10パーセントを求められたところで逃げ出すことにした。
マスクに不満を持っているメンバーが次々と
一方、旧ペイパル派のティールらは、銀行業界全体の変革となるスーパーバンクというマスクのビジョンに反対し、得意としていたイーベイ決済に集中すべきだと主張した。
マスクと最高技術責任者とが激突することもたびたびあった。メインのオペレーティングシステムを何にするかでも揉めた。議論しても決まらないので、腕相撲で勝負を決めようとなり、マスクが勝つ。だがその結果、ソフトウェアを移行するのに時間がかかり、詐欺対策が後手にまわってしまう。最高技術責任者が「詐欺が増えて会社が潰れそう」と言っても、マスクはそっけない返信しかしない。
2000年夏の終わり頃、限界にきていた最高技術責任者が「辞めたい」と漏らしたところ、ほかの仲間たちもマスクに不満を持っていると分かった。