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大木 家に帰ると1人じゃなくて、ササポンがいるというのはすごく精神的な安定につながったと思います。仕事を再開してからも、やっぱりトントン拍子に上手くいくことはなくて。時間をかけて準備していっても「こちらからまた連絡しますね」って言われるような日が続いたりすると、やっぱり落ち込んでしまう。

 でも、私が負のオーラをまとって部屋にこもっていても、ササポンは絶対に自分のペースを崩さないし、私に対する接し方を変えないんです。日本地図を見ながら、「今週末は、一人で自転車に乗ってどこに行こうかな」って印付けていたりして(笑)。それがよかったですね。

映画では井浦新さんが「ササポン」役を演じた ©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

ササポン まあ、親子でもないし、ある意味無関心でいてもいい存在だから。なんていうのかな、入れ込みすぎないっていう、絶妙なのもあるんじゃないかなとは思います。

大木 でも、私がインフルエンザになったときに、絶対に部屋には入らないけど、ドアの前にそっと山芋の漬物とスポーツ飲料を置いてくれて。そういう配慮はしてくれましたよね。

ササポン 本当に困っていて、何かが必要だなと感じたら言葉をかけるだろうけど、悩みだったりとかは、もう本人が自分で解決に向かっていると思っていましたから、話を聞くことだけで十分なのかなと。

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「盛大に酔っ払ってリビングのソファーでぐわーって寝ちゃって…」

大木 これは本にも書いたことですけど、仕事も精一杯やって、かつプライベートでは恋活も頑張っていた時期に、珍しく酔っ払ってリビングのソファーでぐわーって寝ちゃったんですよ。そうしたら、朝起きたときに毛布がかかっていた。私は目を覚ましたときに「やっちゃった……」と。

©橋本篤/文藝春秋

 前夜に酔っ払って一緒に飲んでいた友達に迷惑をかけてしまったおぼろげな記憶もあって、ものすごく後悔していたら、キッチンで発芽米のような寝癖をつけたササポンがコーヒーをトポトポ注いでいて。私が「……何かご迷惑をおかけしていませんでしたでしょうか?」と恐る恐る聞いたら「なんかね、酔っぱらってたから布団かけといたよ」って淡々と言うだけで。

 私にもコーヒーを淹れてくれて、それを飲みながら「ササポンって死にたくなったことあります?」って聞いたら、「うーん、あるけど、忘れちゃった。まあ、離婚したときかな」みたいな感じで、何気なくご自身の過去の辛い経験について仰って。あれは一生忘れないと思います。

もし父親が生きてたら、「見知らぬおじさんと一緒に暮らす」なんて、気まずくて言えなかった

 多分、うちは父が早くに亡くなっているので、それがあったから、ササポンがいることが安定に繋がったのかも。だってここに父親がいたらさ、またちょっと違うじゃん。私たちは4姉妹で、母を入れて女5人。そこにササポンが親戚のおじさんみたいにスッと入ってなじめた感じだったというか。

大木 私ももし父親が生きてたら、「見知らぬおじさんと一緒に暮らす」なんて、気まずくて言えなかったと思う。でも、ササポンはお父さんぽくもないし、上から目線のお説教もしてこない。それがよかったと思います。

©️橋本篤/文藝春秋

姉 「ササポン」って呼び始めたのも途中からだったよね。最初は名字で呼んでいたのに、いつの間にか「ササポン」になっていた。

ササポン ええ? そう?

姉 「私がササポンってつけた」っていったら、アキは「私がつけた」って、喧嘩になったよね。

大木 しょうもないことで喧嘩を……(笑)。とにかく、いちばん最初に大木家の誰かが、ポンポン言い出したような気がする。

ササポン アキちゃんがうちに来たときにはすでに「ササポン」呼びが定着してたよ。

大木 よく怒らないでいてくれたな、と思います。こんな人生の先輩をポンポンポンポン呼んで(笑)。わたしは本にもササポンのいろんなことを書いたのに、読んだときにまず、「この小説はおじさんとの同居物語っていうか、ひとりの女の子の再生の物語だね」って感想を言ってくださって。