フォトラインでの李元大統領の姿は、昨年11月にバーレーンに出国する際に空港で記者らに囲まれた時、「ここ半年の『積弊清算』を見ていると果たして改革なのか、感情的な憂さ晴らしなのか、政治的報復なのかという疑いを持つ」(2018年3月16日、THE FACT)と語気を強めて話していたのとは対照的だった。
3月14日の21時間におよぶ調査では、李元大統領は国家情報院の特別活動資金のうち1億ウォン(約1000万円)の受領以外はすべて否定している。
ちなみに歴代の収賄額を見ると、全斗煥、盧泰愚元大統領はそれぞれ7000億ウォン(約690億円)台、約4100億ウォン(約404億円)とケタ違いに多く、朴前大統領は592億ウォン(約58億円)、盧武鉉元大統領は640万ドル(68億ウォン=約6億7000万円)とされている。
ヘリコプターで生中継された盧武鉉元大統領
李元大統領が「積弊清算」の本願といわれる背景には、盧武鉉元大統領の存在がある。
盧元大統領は、退任して1年後の2009年4月30日、後任の李明博政権時代に企業からの収賄容疑でソウル中央地検に召喚された。
韓国南部の故郷・金海市の自宅を出る瞬間からソウル中央地検に到着するまでヘリコプターで追われ、その様子がテレビで生中継された。これを見た保守派でさえも、「あれはいくらなんでも前職大統領に対してやり過ぎた行為だった」(60代保守支持者)と振り返る人も多い。
ソウル中央地検のフォトラインに立った盧元大統領はカメラの放列に晒され、苦渋に満ちた表情で「国民の皆さまに申し訳ない」と頭を下げたが、この3週間後の5月23日、自宅近くの山から身を投げた。
別の韓国の中道派全国紙記者が語る。
「この件が弔い合戦といわれる所以です。弁護士時代から苦楽をともにしてきた文大統領は盧元大統領の葬儀では喪主を務めました。文大統領が当選した時は保守派から『報復政治が始まる』というため息交じりの声が出ていましたが、それが現実となった。
ただ、李元大統領への調査は、大統領選挙前の党内の予備選挙の時にも行われましたが、その時はうやむやとなった。次の権力へ"忖度"したのではないかと検察を批判する声もあがっています。また、朴前大統領もこっそり行っていました。決定的な証拠を見つけることができず、側近何人かを逮捕するにとどまりましたが、政権が代われば矛先が向けられるのは保守派同士でも同じこと。一概に弔い合戦とも言えない部分もある。
文大統領なら積弊清算と言いながらも、無理な捜査はやらずに、過去の負の歴史を断ち切るのではないかと期待する声も一方でありましたから、李元大統領の逮捕は想定内だとしても、また繰り返されたかという悄然とした妙な雰囲気もあります。
一昨年の朴前大統領と崔順実氏をめぐる事件では官僚など11人が逮捕されていて、捜査には90名あまりの検事が駆り出されている。最近では、『積弊清算』にうんざりした雰囲気も流れていて、『国を変えろといったが、これでは改革ではない』という声も出始めています」