被告人の男が退廷後、ようやく検察側の冒頭陳述が始まった。それによると男は、2021年6月1日午後1時36分から43分の間に、ホテルの一室でAさんを殺害。その後、男性従業員に全治3カ月の怪我を負わせたが、この事実関係に争いはない。
裁判の争点は(1)男性従業員を刺した行為に殺意はあったか、(2)犯行当時、被告人の責任能力はあったか、(3)被告人には訴訟能力があるか、という3点に絞られている。
弁護側は「責任能力がない」として無罪を主張
犯行当日の男の行動も、検察の陳述によって明らかになった。
犯行当時、被告人の男は人生を悲観して「自殺したい」と感じており、以前利用した風俗店で出会ったAさんを殺害して自身も自殺しようと考えたという。そこで、犯行前日に風俗店に電話をしてAさんを指名して予約を入れた。
犯行当日は時間通りに風俗店へ行き、サービスのリクエストシートを記入し、ホテルの部屋に向かい、風俗店に「入室した」と電話連絡をした。そして、Aさんの性的サービスを盗撮しようとiPadの準備をしている。
しかしAさんが盗撮に気づき、事務所に「盗撮です。来てください」と連絡をした。風俗店の男性従業員がホテルへ向かいドアをノックすると、被告人の男はドアの隙間から顔を覗かせ「プレイ中です」と答えた。
男性従業員がドアの隙間に足を入れると、被告人の男は持っていた刃渡り20センチほどの包丁でAさんを殺害し、男性従業員にも突き刺して逃走。検察側は、男には殺意があったと主張した。
しかし弁護側は陳述で、女性従業員を殺害し、男性従業員に怪我を負わせ、正当な理由なく包丁を持っていたという一連の犯行について、責任能力がないとして無罪を主張。さらに男性従業員に怪我を負わせた事件について、殺意がないとして殺人未遂罪ではなく傷害罪であると主張した。