その根拠として、男が生まれつき自閉スペクトラム症(ASD)であり、他人の気持ちや経験していないことを理解するのが難しかったことが挙げられた。
男は小学校の頃からトラブルを起こし、授業の課題についていけなかったという。しかし親が息子の状況に気づかなかったことで障害が見過ごされ、サポートを受ける機会もないままに成長。高校生になるとトラブルが目立つようになり、複数の人に夢精の話をするようになった。理科の実験中には、微生物を殺そうとしてプレパラートを壊したこともあったという。
高校2年生で万引きをした時にも、反省文で「万引きしたらどうなるのか知りたかった」と書いている。その後高校を中退して通信制の高校へ通うことになるが、この段階でも両親は障害に気がついておらず、父親は「時間が経てばなんとかなる」と楽観視し、母親は宗教にのめり込んでいたという。
2020年の3月には通信制高校を卒業し、5月に介護の仕事を開始したが、周囲とうまくいかず短期間でこの仕事は辞めている。この頃から、幻聴が聴こえるようになったという。6月に初めて精神科を受診したが、7月には原付バイクのナンバープレートを盗み「自分の住所表示にひらがなが入っているのが納得いかなかった」と犯行理由を語っている。
「タイムリープをして、人生をやり直そうと思った」
2021年1月に家庭裁判所で保護観察処分を受け、精神科への通院を勧められたが、親は消極的だった。2月に金属加工の会社に入社したものの、トラブルがありここも短期間で辞めている。仕事が続かないことを父親に叱責されたことで「自分は生きている価値がない」と思うようになったという。
被害女性のAさんに一緒に死んでもらいたいと思うようになった理由についても「タイムリープをして、人生をやり直そうと思った」からだという。弁護側は、これら一連の行動が自閉スペクトラムの影響であるとして無罪を主張している。
適切なケアを受ける機会がないまま人を殺めてしまった男にどのような判決が下るのだろうか。