派手系、オタク系、文系、体育会系……。思い返せば、学生時代のクラスにはたくさんの小さな村が存在していたように思う。誰に言われずとも、皆なんとなく空気をかぎ取り自分と似たような者たちが集う村に身を置き、そこにいる人たちを“友達”と呼び合う。誰だって学生時代にそんな経験を経て、今こうして大人になっているのではないだろうか。『佐々田は友達』は、そんな学生時代の空気感を鮮明に思い出させてくれる。
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ちょっと面倒くさそうなクラスメイトにロックオンされて…
本作の主人公は、なんとなくオタク系の村に属しているけれど気を許せる友達はまだいない、おとなしい性格の佐々田絵美。そんな佐々田がある日突然、派手系のクラスメイト・高橋優希にロックオンされるところから物語が始まる。優希は、どの時代にも絶対クラスに1人はいる、目をつけられたらなんとなく面倒くさそうな……、つまり佐々田とは“違う村の住人”だ。
何もかも正反対の2人だけれど、佐々田は優希の強引さに乗せられて一緒に帰ったり、放課後遊んだりする。そうすると意外と楽しかったり、やっぱり楽しくなかったり……。大きな衝突や喧嘩をすることはないが、逆に強い友情が育まれることもない。2人の関係性は、“知り合い以上、友達未満”という言葉がしっくりくるほどなんとも言えない平熱感が漂う。
人をダシにして盛り上がるクラスメイト
そんな2人を見て、時に「佐々田さん、困っちゃってるじゃん」と、助け舟を出すかのように見えて、どこか人をダシにして盛り上がるクラスメイト。高校時代、別に陽キャでもないくせに損得勘定で都合よく陽キャの村人ぶっていた自分の姿と重なる。『佐々田は友達』は、心がざらつくような青春時代の影の部分を再上映されているかのようなリアルさがある。
表面上では何も変化がないように見える佐々田と優希だが、やがて2人の心にはさざ波が立ち始める。例えば、「人生はパーティーチャンスの連続!」がモットーの根っから明るい優希は、学校があまり好きではないという佐々田の気持ちが一ミリも理解できず、思うように佐々田との距離を縮められない。対して佐々田は、優希の距離感の近さやストレートな物言いに戸惑うものの、もしも彼女のように自己表現がはっきりできたなら自分はどう生きたいのか? と自問自答する。
自分とは一体何なのか。すっかり大人になったように見えて、実はまだ自分自身の輪郭さえはっきりしていない10代。『佐々田は友達』は、学生時代のクラスの空気感を追体験するような懐かしさに加え、未熟な若者たちが自分を自覚していく様子を柔らかな筆致で描く。こうして佐々田と優希を見つめていると、大人になったとき間違いなく忘れられない“友達”になりそうではあるが、果たして2人はどんな関係を育んでいくのだろうか。二度と戻れない青春時代に思いを馳せながら、これからも2人をそっと見守りたい。