開幕戦特有の、この清々しい雰囲気が大好きだ。以前、「プロ野球ファンには3回の正月がある」と書いたことがあるけれど、「3度目の正月」が来て、晴れやかな気持ちでこの日を迎えている。ちなみに、「3回の正月」とは、新年の訪れである1月1日、キャンプが始まる2月1日、そして、開幕戦のことである。
開幕戦とは、その年のチームの戦い方、大げさに言ってしまえば「哲学」のようなものを表明する場なのだと僕は考えている。「今シーズンのうちは彼を中心に戦っていきますよ」「今年はこのような打順で得点を奪いに行きますよ」「今季のリリーフ陣にはこんな顔ぶれがそろっていますよ」と、球団からファンへのお披露目興行のような側面もあるように思うのだ。今年、開幕マウンドを託されることになったのは来日2年目のブキャナンだ。「今シーズンのヤクルトはブキャナンを中心に展開していきますよ!」という小川淳司監督からのメッセージ。しかと受け止めたい。
チームメイトを「家族」と呼ぶナイスガイに託した開幕戦
それにしても、ブキャナンはナイスガイだ。来日早々となる昨年の開幕前には、日本語で「家族」と書かれたTシャツをプロデュースし、チームメイトやスタッフに配布した。ファンサービスにも積極的で、特に子どもファンに対しては自らの練習ウェアやスパイクなど、惜しげもなくサイン入りであげている光景をしばしば目にした。
昨年は好投するものの、打線の援護に恵まれずに6勝13敗と黒星が先行した。それでも、QSを達成しながら勝利を挙げることができなかった試合は、実に11度もあった。チームで唯一、規定投球回をクリアしたのもこの男だった。昨年まで一軍投手コーチを務めていた伊藤智仁(現・富山GRNサンダーバーズ監督)はかつて、彼をこう評した。
「彼のプレースタイルは本当に気持ちがいい。周りに“彼を勝たせたい”と思わせるピッチャーだからね。常に闘志をむき出しにしているし、バッティングも守備も、何をやらせても一生懸命。試合になると、普段とは別人のような表情だしね。自分が降板した試合でも、チームが勝てば普通に喜んでいるし、キャンプでも外国人用の特別メニューじゃなくて、日本人と同じメニューで夜間練習までしていましたからね」
昨年5月30日のオリックス・バファローズとの一戦に先発した際には痛烈な打球を足に当てたものの、それでも平然とマウンドに立ち続けた。当時の伊藤コーチが「一度、ベンチに戻って手当をした方がいい」と諭したものの、ブキャナンは「ノー!」と拒否したという。このとき、ブキャナンは言った。
「オレは絶対に引き下がらない。絶対にマウンドに居続けるんだ!」
一度マウンドに上がったのならば、最後までそれを守り続ける。先発投手ならではの矜持は他のどの投手よりも強い。そんな男が、再起を図るチームの2018年開幕マウンドを託されたのだ。ブキャナンが意気に感じていないはずがない――。