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「老いた1匹を殴り、蹴り、噛みついて…」〈人類とDNAの99%以上を共有〉チンパンジー同士で“殺害”が起こる「ある条件」

『戦争と人類』より #1

note

チンパンジーの間で「殺害」が起こるのは…

 チンパンジー同士の衝突は、人間の狩猟採集民の「戦争」よりも原始的だった。チンパンジーはめったに武器を使わないし(木の枝をときおり使うことはあるかもしれないが)、1匹のチンパンジーが素手で別の1匹を殺すのは容易でない。

 チンパンジーの集団間では、決して大きな戦いは起こらない。殺害が起こるのは、一方の集団に属する多数のチンパンジーが、対立する集団から孤立した1匹を急襲するときである。

 それは境界線のパトロール中に起こった。ある地点で……チンパンジーの群れは、25メートル先に隠れているらしいゴライアス[老いたチンパンジー]を見つけ、興奮して斜面を駆けおりた。

 

 大声をあげるゴライアスを、群れのチンパンジーたちがはやし立て、威嚇する。ゴライアスは捕まえられ、殴打され、蹴られ、持ちあげられ、落とされ、嚙まれ、飛び乗られた……攻撃は18分間続き、群れは引きあげた……ゴライアスは頭から大量に血を流し、背中には切り傷を負っていた。起きあがろうとしたが、震えて倒れた。彼の姿もふたたび見ることはなかった。(※1)――『男の凶暴性はどこからきたか』(リチャード・ランガム、デイル・ピーターソン)

 それは本当に戦争だったのだろうか。いずれにしても、パトロール隊は、対立する集団から離れたオスを見つけるたびに襲ったわけではなかった。森を移動中に、対立する集団の仲間同士が連絡を保つために発する鳴き声に耳を傾け、襲撃するのは標的を助けに来る仲間が近くにいないときだけだった。

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 そうでなければ、その日は静かに引きあげた。だが、これは重大なことだった。警戒を怠らずにいても、殺されるのは一度に1匹だとしても、群れのオスが最終的に全滅することもあった。そうなると敵対する集団のオスが群れに移入し、生き残ったメスを奪い、生まれたばかりの子を殺して、自分たちの子を産ませるようにした。

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