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「#作家になった流れ」が流行っているけど…「小説家になろう」発の作家がデビューするまで

「#作家になった流れ」が流行っているけど…「小説家になろう」発の作家がデビューするまで

『暁からすの嫁さがし』(雨咲はな)

2023/12/06

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書

note

異世界転生など、ネット小説のブームはあるけれど

 ネット小説には歴然とした「流行」がある。私が知る限りでも、異世界転生、チート、追放系など、その時のブームに乗って多くの作品が生み出された。現在人気なのは悪役令嬢だろうか。そういう流行りものはいくらでも他の人が書いてくれたお話を読めるので、私はおもに「こういうのが読みたいけど見つからない」という時、自分の需要を自分で供給するために書く。自分自身の楽しさが最優先、という我欲のカタマリのような人間で、その上ヘタレで小心者でもあるから、もしもボコボコに叩かれたり批判されたりしたら、いつでもすぐ逃げようと考えていた。幸いにしてそんなこともなく続けてこられたが、それはひとえに運がよかったのと、優しい読者さんに恵まれたためだと思っている。

「BUNCOMI」で連載中の「『俺、勇者じゃないですから。~VR世界の頂点に君臨せし男。転生し、レベル1の無職からリスタートする~」も、「小説家になろう」の人気作のコミカライズだ

 私があれこれストーリーを作るのは、様々な「変化の過程」を書きたいから、という理由が大きい。人の価値観や考え方が変わっていく過程、誰かを特別に思うようになる過程、いろいろなことを経験して乗り越え少しずつでも成長していく過程だ。そういうのをじっくりネチネチと描写していくのが大好きなのだ。

 長いことそんな話ばかりを書いていたら、ありがたいことに「私も好きかも」と言ってくださる方が増えていき、新作を投稿すれば読んでもらえて、ジャンル別や日間総合のランキングに載ったり、出版社主催のコンテストで受賞したりするようになった。私の場合、その時点ですでに初投稿から七年くらい経っている。書籍化の秘訣も何もない、単なる執念深さの勝利。ほらね、地味でしょう!

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出版社から声がかかったときは「なにかの詐欺かと思った」

 一迅社アイリスNEOさんのファンタジー大賞で銀賞を頂いたのが2020年(『ドリームガーデン』)。それがきっかけで認知されたのか、KADOKAWA富士見L文庫さんから書籍化の打診をいただき、『鳴かぬ緋鳥の恋唄』で商業デビューした。以降、少しずつお声をかけていただいたり、賞を頂いたものが書籍化されたりして、今に至る。

『ドリームガーデン~私と中尉の偽装結婚~』 (雨咲はな著、アイリスNEO刊)

 ここまでやってこられたのは、実力よりも幸運のほうがずっと大きかった。デビューしてから私は一度も抽選や宝くじに手を出していない。そんなところで運を使っている場合じゃないからである。常に不安を抱えながら無我夢中で進んできたので、反省点はいくらでもあるが、達成感を覚えたことはあまりない。本が出るたび、心から安堵はするけれど。

 それでも、自分の小説をコミカライズしてもらったり、すごいイラストレーターさんに表紙や挿絵を描いていただいたりと、楽しい経験や喜びもたくさんある。神さまから何かのご褒美を貰っている気分だ。

 今回刊行された『暁からすの嫁さがし』は明治時代が舞台の和風ファンタジーで、「しっかり者の女学生」「妖魔退治をする一族」「人の心の闇と光」「目には見えないけど変わっていくもの」という、自分の好きなものばかりを詰め込んだお話。こんな感じにしたいという私の希望をほとんど修正することなく、より良い内容になるよう上手に誘導してくださった担当さんには、感謝してもしきれない。最初のうち、「ホンモノの文春文庫から声がかかるなんてあり得ない……何かの詐欺か?」と内心ひそかに疑心暗鬼だったこと、ここで懺悔しておく。すみません。

写真:アフロ

 悪役令嬢は出てこないし、少しダークな面もあるし、ヒーローはキラキラな王子さまではなくカラスを連れて日本刀を背負った不愛想な青年だが、ライトな作風なので、どなたにも気軽に手を伸ばしていただけたら嬉しい。

 今の私は、自分が楽しむのと同じくらい、読んでくださった方にも楽しんでもらいたいと願っている。ボコボコに叩かれても、もう逃げようとは思わないだろう。この物語が、どこかの誰かの心や感情を一瞬でも動かしたなら、私もちょっぴり神さまにお返しができたような気になるかもしれない。

暁からすの嫁さがし (文春文庫)

雨咲はな

文藝春秋

2023年12月6日 発売

「#作家になった流れ」が流行っているけど…「小説家になろう」発の作家がデビューするまで

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