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1998年に絶版→2011年に復刊、その理由は?

 さて、この作品の単行本は、雑誌での連載終了後、1977年4月に刊行。1980年には文庫化され、1984年の著者の訃報を経て、1998年まで版を重ねていた。が、その後は前記したように絶版に。21世紀に入ると、書店から一度、この本は姿を消してしまっていたのだ。

 そこから十数年経った2011年7月。本書は新装版文庫として奇跡の復刊を遂げた。

 代表作以外はいわゆる絶版、品切れとなっていた状況の中で、復刊を企画した文春文庫編集部の山口由紀子さんは、「もともと有吉作品の大ファンだった」という。

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「『紀ノ川』のような大河的な小説から『悪女について』のような振り切ったエンタメ小説、人種差別をテーマに据えた『非色』、もちろん『恍惚の人』『複合汚染』も含めて、有吉さんの作品は子供のころから読んできて、大好きでした。古典芸能や土着のものもものすごく面白く書くし、現代的な課題も巧みに物語に落とし込む。昭和の女性の鬱屈や情念はもちろん、男性の権威主義的なところや哀れな部分もしっかり描いている。すごい作家だな、と思っていました」

有吉佐和子さん(1975年撮影)

資料室で読む手が止まらなくなった!

 文庫は、すでに刊行されたが今は読むことができない古今東西の隠れた名作を掘り起こし、復刊をする場でもある。そこで山口さんはときおり会社の資料室にこもり、会社がこれまで刊行してきた単行本や文庫の背表紙を眺めるようにしていた、という。

「そこである日『青い壺』に目が止まりました。正直タイトルもなんだか地味だし、あらすじだけ読んでも、大きなテーマ性があるわけではなさそうだし……。

 でも、この小説は知らなかったな、となにげなく手にとって読み始めました。

 すると、もう止まらない止まらない。資料室に何時間も籠もって読み終えてしまいました。“この一冊に、有吉佐和子のすべてが入っている!”と思える面白さ。すぐ企画会議に出して新装版の刊行が決まりました」

 かくして、2011年7月に「新装版」文庫が刊行され、10年の時を経て令和の人気作家の「推薦文」が力となって、ベストセラーになった、というわけだ。

 ちなみに『青い壺』の中で山口さんが好きなのは、ヨーロッパ生活が長かった姑との関わりに悩みながら2人の子供を育て上げた妻をねぎらおうと、夫が妻をはじめて芝公園のフランス料理店に誘い「舌平目のムニエル」や「ホロホロ鳥のソテ」をご馳走する第8話。2人の会話がしみじみ面白い。

 一方、本書を担当する営業部の20代男性は、定年後無為に過ごしている男性が久々に会社に行く第2話が、「非常におそろしく」て心に残る、とのこと。文庫部の40代女性は、50年ぶりの同窓会のために京都旅行に出てきた老女たちのにぎやかな騒動が描かれる第9話がお気に入り。ちなみに筆者は、いかにも権威主義的な美術評論家と、日々実直に生きる病院の清掃係の対比が見事な第12話がおすすめだ。

 それぞれに自分の好きなストーリーを見つけられることも、この昭和の名作にして令和のベストセラー、『青い壺』の魅力。読書会にもうってつけの一冊、といえるだろう。

新装版 青い壺 (文春文庫)

新装版 青い壺 (文春文庫)

有吉 佐和子

文藝春秋

2011年7月8日 発売