昭和の名作家・有吉佐和子の長編小説『青い壺』が、令和の時代に大ブレイク。現在45万部を超える大ベストセラーになっている。

 惜しくも受賞を逃したが、第170回直木賞で候補作となった『襷がけの二人』が選考委員から「読書の喜びを満喫できる、魅力的な作品だ(三浦しをんさん)」、「市井の片隅に生きる女たちの世界を、女でしか書けない視点で描いた作者の勇気と筆力に感動した(桐野夏生さん)」と絶賛された気鋭の作家・嶋津輝さんは、10代のころから有吉佐和子さんの大ファン。久しぶりに『青い壺』を再読し、改めて有吉ワールドの魅力に浸ったようだ。 


青い壺』(文春文庫)

再読する前から面白いことはわかっていた

 三十年ぶりに『青い壺』を読んだ。壺をめぐる連作短篇である、ということ以外は記憶から抜けていたが、再読する前から面白いことはわかっていた。なにしろ、有吉佐和子作品なのである。

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 長州力の話すアンドレ・ザ・ジャイアントの逸話がハズレなく面白いのと同様、有吉作品にもハズレはない。二十代のころ書店に並ぶ有吉佐和子の文庫本のほとんどを読んだ私は、そのことをよく知っている。
 
 有吉佐和子の豊富な作品群は、大河ドラマ向けと昼ドラ向けに大別される印象だ(なぜか朝ドラ向けは存在しない)。数としては大河が優勢だが、『青い壺』は、『不信のとき』や『夕陽ヵ丘三号館』なとど並び少数派の昼ドラ向けのように思う。
 
 大河と昼ドラにそれぞれ異なる面白さがあるように、有吉作品はどのジャンルにおいても私を惹きつける。
 
 重厚な長編ではタイムスリップのごとく主人公をとりまく世界に入り込めるし、軽めの現代ものは先へ先へ頁をめくらせる牽引力に充ちている。癖がなく巧い文章は大長編でもすらすら読ませ、登場人物の会話はときにユーモラスで味わい深い。膨大な取材や時代考証に裏打ちされた知見が散りばめられているのも魅力のひとつだ。

 美点を挙げればキリがないが、なかでも私がこよなく愛するのは、大河・昼ドラ向けどちらのタイプにも通底する「生活感」である。