「民衆の手に政治をとり返したい」
対談で、尋常高等小学校卒業の清張氏が「大学を出た人が、『あいつは高校時代の友だちだ』『中学の先輩だ』とか話しているのを聞くと、羨ましい」と語っていることに、池田氏は大いに共感している。そして、創価学会は民衆のために戦っているのだと強調する。
〈池田 松本さんの小説は、庶民の知恵というか、庶民の心をつかんでいる。いいかえれば、庶民の史観というものをつらぬき通している。そこにベスト・セラーになる秘密があり、松本文学の急所がある、とわたしは見ているんですが……。
松本 自分の書いたものはよくわからないんですが、はじめからそういう意識があってそれに沿って書いているわけじゃない。書いているうちに、そういうふうになってくる。体質とでもいうものでしょうね。
池田 わたしたちも、松本さんと方法はちがいますが、庶民のために戦っております。松本さんも『日本の黒い霧』で、政治のからくり、不正を大いに暴露されましたが、これは民衆のために大変よかった、と喜んでおります。
わたしたちはこんどは実地に黒い霧を追及して、民衆の手に政治をとり返したい、と戦っております〉
選挙には今後も出るつもりはない
それゆえに公明党を結成したと語る池田氏だったが、清張氏は宗教団体が政党を持つことの危うさについて問いただす。
〈松本 創価学会の立場は、公明党を応援するというかたちですか。
池田 そうです。ですから、わたし自身は選挙にでておりません。今後も出るつもりはありません。それがなによりの証拠です。
松本 しかし、それは池田さんの外部向けの公式発言のような気がする。公明党の人たちは、結局のところ、池田会長の指示なり意図なりに従って活動していると思う。
池田 いや、そうであれば、実力者といえるが、みんなまわりが偉い人ばかりなので、反対に皆さん方にかかえられているのが実相ですよ。(笑)〉
対談から約30年後、公明党は政権与党として君臨
清張氏の追及を笑ってはぐらかした池田氏だが、創価学会が秘めている政治的野望を、清張氏は予言めいた口調で次のように喝破している。
〈松本 少し現実的な問題になりますが、これから公明党はさらに伸びて有力政党になる可能性がある。与党絶対過半数という現在の勢力率が破られるときがくる。
池田 そうなるとうれしい。松本さんは推理作家だからあたるだろう。(笑)
松本 そうすると、公明党がキャスティング・ボートを握る……。
池田 なりたいもんですね。
松本 なるでしょうね〉
対談から約30年後、1999年に公明党が自民党と連立を組み、民主党政権の間を除いて、今に至るまで政権与党として君臨して続けている。
「特別再録 松本清張対談×池田大作『戦争と貧困はなくせるか』」の全文は、「文藝春秋 電子版」(12月5日先行公開)と「文藝春秋」2024年1月号(12月8日発売)に掲載されている。
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