1ページ目から読む
2/3ページ目

子どもからの信頼を得て、徐々に体や性器にも触れていく

 子どもと面識があり、親しい関係になった大人によるグルーミングの一例です。

 加害者はゲームやおもちゃで一緒に遊んだり、勉強を教えたりすることで「やさしいお兄さん」「信頼できる大人」など、子どもからの信頼を得ていきます。やがて子どもを膝の上に乗せたり、肩をもむといったスキンシップ行為を始め、断りにくくさせたうえで徐々に体や性器にも触れていく。これが面識のある関係でのグルーミングのひとつのパターンです。

 顔見知りによるグルーミングにおいて、多くの場合、加害者はその関係性を利用します。学校の教員や家庭教師、塾講師や習い事の先生、保育士、トレーナーなど、仕事のなかで子どもの信頼を得やすい職業に就いている事例も多いです。

ADVERTISEMENT

 あくまで報道されている限りですが、ジャニーズ事務所における故・ジャニー喜多川氏の性加害問題も、顔見知りによるグルーミングの典型例です。喜多川氏は、「合宿所」と呼ばれる自宅に少年たちを招き、マッサージなどで体に触れたり、風呂に一緒に入るなどのスキンシップを経て、やがて口腔性交や肛門性交に至ったことが当時者の証言で次々と明らかになっています。明らかな暴力行為についての報道はありませんが、告発した男性たちは、「ここで断るとデビューはできなくなると思った」など、喜多川氏の絶対的な権力を前に断ることはできなかったと述べています。まさに性暴力は、権力関係と構造の問題であることを体現している事件です。

写真はイメージです ©iStock.com

「お母さんに言ってはいけないよ」「ふたりだけの秘密だよ」と巧みに口止め

 私はよく「加害者はマジックを使う」と表現します。加害者は圧倒的に優位な立場にいるために、子どもがいともたやすく手なずけられてしまうからです。さらに「お母さんに言ってはいけないよ」「ふたりだけの秘密だよ」など、小児性犯罪者は関係性を利用して、巧みに口止めを行います。

 また彼らは関係性を利用して、親やコミュニティなど周囲の大人たちまでも懐柔していきます。本来ならば子どもを守る立場にいる保護者ですら、加害者を「面倒見のいい人」と勘違いしてしまい、まさか子どもが性被害にあっているとは夢にも思わないわけです。子どもだけでなく、親やコミュニティまで懐柔する。これがグルーミングの本質であり、おそろしさです。

 さらに、Cのように「特別感」を演出するのも加害者の常套手段です。「この部屋に来られるのは君だけだよ」など被害者がいわゆる「お気に入り」なのだと錯覚するような演出をするわけです。ジャニーズ事務所の性加害においても、告発者のなかには、かつて事務所に所属していたトップアイドルが使っていた個室を特別にあてがわれていたことも一連の取材(*2)で明らかになっています。