「週刊文春CINEMA」の≪BEST CINEMA 2023≫第5位は、韓国映画『別れる決心』。パク・チャヌク監督は本作でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞した。『オールド・ボーイ』など過去作とは雰囲気の異なるサスペンスロマンのインスピレーションや狙いを聞いた。
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試行錯誤は監督として作品を作りあげるための“旅”
──フィルム・ノワール色の濃い映画ですが、本作のインスピレーションは?
パク インスピレーションは2つあります。1つは北欧の警察小説マルティン・ベック・シリーズを読んでいるときに、容疑者にさえも思いやりを見せるような、優しくて思いやりのある刑事が主人公の映画を作ってみたいと感じたこと。2つめは韓国の「ミスト」という曲。この曲を聞き、霧に包まれた都市を背景にしたロマンス映画を作ってみたいと。この2つのイメージが融合したのです。
──バイオレンスやカタルシスが顕著だった過去作とは異なり、本作では複雑な入り混じった感情を描く大人の映画を意図したそうですが。
パク 主人公は刑事らしからぬ人物という発想から始まり、女性にはどんな要素を持たせるかを考え抜きました。自分の願望や感情をあまり表に出さない女性と自己表現があまり得意ではない刑事との関係を軸に描きたいと思ったんです。でもそこをわかりやすく表現せずに、複雑だけどいかに観客に訴えかけるかが課題でした。こうした試行錯誤は監督として作品をつくりあげるための1つの“旅”でもありました。
「韓国らしさ」を屋外シーンで見せるために
──韓国という国を象徴するような景色も素晴らしいですね。山と海の景色が2人の人物像を象徴しているそうですが。
パク これまでの作品は室内シーンが多かったが、本作では屋外シーン、例えば韓国式の寺院などで韓国らしさを出しました。とはいうものの、観光局のポスターのようにはしたくなかったんです。また、景色ばかりではなく、天候、雨や霧や波といった自然の要素も取り入れ工夫しました。
例えば海岸の巨大な岩の間をソレは登りある決心をします。この同じ道を、彼女を追ってきたヘジュンも歩いていく。この岩は映画の最初の部分に登場する巨大な岩を彷彿させます。あの岩がなければ、2人は出会わなかったし、ヘジュンは事件を解決するためにはここを登らなければならなかった。ある意味でメタファーとして使用しているのです。