石丸は恐怖から、奥田に従順になった。結果、奥田のお気に入りになったようだった。サッカー部で補欠からレギュラーへの昇格が言い渡されたのだ。石丸は後に、実力による評価というより、奥田が立場を利用して力関係を示すためだったのではと考えるようになる。
さほど接触機会があったわけではないサッカー部での1年間だったが、「今思えば、もうコントロールが始まっていたんだと思います」と石丸は振り返る。
4年生になると、奥田が担任になった。大型連休が明けた頃には、毎日のように、学校生活の中で奥田からこう呼び寄せられるようになった。
「素介、ちょっとこっち来い」
休み時間、授業中、体育の着替え前後……奥田の手が空く数分間に、その声は降ってきた。
わいせつ行為の始まりだった。
教室の前方中央の教員用机は、相対する児童の席からは足元が見えないようになっている。机で隠れている回転椅子に座る奥田は、石丸を呼び寄せると、背後から抱えるように膝に乗せた。
そして、大腿部から半ズボンの隙間、パンツの下へと手を滑らせ、陰部を触るのだ。
石丸は混乱や恐怖で、無言で体をこわばらせることしかできなかった。
対照的に奥田は、他の児童が同じ空間にいるのに平然としていた。石丸の陰部を触っている間も、他の児童に「宿題やってきたか?」などと声をかけることがあった。石丸は言う。
「下半身が見えていない他の子からしたら、おかしなスキンシップには見えなかったかもしれません。石丸は先生と仲がいいな、くらいに捉えられていただろうと思います。仲がいいというか、まあ、先生のペットみたいなものだと」
石丸が抵抗できないのを見て取った奥田は、次第に声かけさえすることなく、無言で腕を引いて教員用机の向こうへ連れていくことが増えていった。
4年生の間に、さらなるわいせつ行為が加わった。
「今も毛深い人を見ると鳥肌が立ちます」
奥田は終業までにこう言ってくる日があった。
「今日はお前の家まで送っていくよ。サッカーが終わったら教室に来なさい」
サッカー部の練習は夏なら午後6時、冬は5時頃までだった。練習を終えて教室へ行くと、教員用机の周りだけ電気をつけて奥田が待っていた。他には誰もいない。他の教職員が通りかかることもなかった。
奥田は「成長はどうなっているかな」と言いながら、石丸の服を脱がせた。最初は下着を残して、後には全裸にされたこともあった。
最初にこうされた時、石丸は手を振りほどこうとした。必死の抵抗だった。しかし腕を強く掴まれると、恐怖と諦めからそれ以上力が入らなくなってしまった。
奥田は服を脱がせると石丸を抱きしめ、「素介はいい子だ。素直に言うことを聞くいい子だ」と言いながら陰部をまさぐった。
時間にして10分から数十分ほど一方的に弄ぶと、奥田は小学校から700メートル先の石丸の自宅まで車で送っていった。
こうした呼び出しは、週に数回のこともあれば、数カ月間空くこともあった。回数を重ねるにつれ、奥田は大胆になり、自身も全裸になることがあった。裸になった奥田は、椅子に座り、服を脱がせた石丸を相対する形で膝に乗せて抱きしめた。そして体中を撫で回した。
「奥田はとても毛深くて、肌が触れると歯ブラシかたわしのようでした。その記憶のせいで今も毛深い人を見ると鳥肌が立ちます。そして、勃起したものが当たってゴツゴツする感触も。なぜその時抵抗できなかったのかなと今でも思いますけど……」
4年生の石丸は、勃起が興奮による現象であることは知っていたが、こうした行為の意味はよくわからなかった。ただ本能的に「イヤだ」と感じていた。
なぜその時抵抗できなかったか、という自問に、石丸は二つの理由を思い浮かべる。