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「半ズボンをはいてくるように」小学校担任教師による“継続わいせつ” 母親が見逃した息子のSOS《実名告発》

「ルポ男児の性被害」連載

2023/12/15

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース, 社会

note

 一つは、担任としての奥田の威圧的言動だ。

 奥田は、遅刻したり教科書を忘れたりした男子には「もみじ」と称する罰を与えた。児童の背中をさらけ出させて、手のひらの跡が紅葉のようにつくほど強く叩くものだ。石丸はこれをされたことがなかったが、他の男子はパチンと大きな音が響くほど強打されていた。時には顔面を平手打ちにされる男子もいた。

 こうした体罰を日常的に目の当たりにすることが、石丸を萎縮させていた。

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 さらに奥田の意に沿わない男子には、言葉による嫌がらせがあった。

 もみじを何度も受けていた一人が、教育委員会に言うぞと反抗したことがあった。しかし奥田は「言えるなら言ってみろ。言っても無駄だぞ」と見くびったように返した。その後も「お前はなんでそんなバカなことを思いつくんだ」などと皆の前で執拗に責めた。

 普段から体罰の対象になっていた別の男子がホームルーム中におもらしをした時には、奥田が「おちょねんパンパース」というあだ名を付けた。

 今の石丸はこう分析する。

「えこひいきが激しくて、ちょっとでも奥田に反抗の色を見せる子や好きじゃない子には体罰や悪口が待っていました。子どもながらに自分を持っている子に対してきつかった気がしますね。僕は早々に自我を折られた“いい子”だったから、手を上げる必要もなかったのでしょう。何でも聞くロボットみたいになっちゃって、やりたい放題させてしまった」

 後年、石丸のこの人格を主治医は「空っぽの優等生」と表現することになる。

 そして石丸が奥田に抵抗できなかったもう一つの理由に、家庭環境の問題がある。

石丸さん

「うるさくない親だから」

 3年生の頃、父親のギャンブル依存症によって家庭の経済状況が悪化し、専業主婦だった母親の厚子が働きに出るようになっていた。4~6年生にかけて、両親とも常にイライラして子どもに関心を向ける余裕がない状態が続いた。

 石丸はわいせつ行為を受け始めた直後から、厚子にたびたび「学校に行きたくない」と伝えていた。ただ、理由を問われるとうまく説明できなかった。忙しい厚子はそれ以上掘り下げて聞くことはなかった。

「僕が奥田に狙われた理由も、うるさくない親だから、ということにあったと思います」

 親にも言えず、教育委員会に言っても無駄だと刷り込まれた石丸は、自力で被害を回避する方法を模索した。サッカーの練習や試合では、わざと捻挫などのケガをした。病院へ行くために学校を休んだり、膝の上に乗せられる時に「痛い」と言ったりするためだった。実際に痛がったことで奥田の手が止まったこともあったのだ。そのため、石丸は絶えずケガをするようにし、奥田から「ケガ丸」というあだ名を付けられたほどだった。

 半ズボンでなくハーフパンツをはくことで防御を試みたこともあった。しかしこれは失敗に終わった。奥田が怒り、クラスの皆の前で「石丸がはいているようなハーフパンツはダサい。ステテコパンツだ」と罵ったのだ。

「いじめのターゲットになったような気分でした。これで逆らえなくされちゃうんです」

 厚子は、当時の素介が「先生に半ズボンをはいてくるように言われた」と語ったことを覚えている。厚子はその言葉に引っかかりを覚えたものの、不審とまでは思わなかった。

 奥田は男子に威圧的な面がある一方で、アメとムチを使い分けるようなところがあった。しばしば休日に男子数人を自宅に招き、昼食を振る舞い、そのままドライブに連れていくことがあったのだ。石丸も何度か他の男子とともに呼ばれたが、こうした機会にわいせつ行為を振るわれたことはなかった。

「あくまで児童と仲良くするのが目的だったんじゃないかとは思います。ただその一部に僕のようなわいせつの対象がいて、他の子がカモフラージュになっていた。狡猾ですよね」

 石丸は4年生の5月頃、最初に奥田の自宅へ行った時のことが最も印象に残っているという。

 その日、もう一人のサッカー部の男子とともに招かれた石丸は、奥田の自宅で焼き肉を食べた。一人暮らしだという奥田が用意していたものだ。帰り道、自宅まで送られる車中で、石丸は吐いた。迎えに出た厚子が奥田に頭を下げる様子をぼんやり眺める石丸には、車酔いとは違うという感覚があった。

「ちょうどわいせつ行為が始まった時期だったんです。その頃からです。食欲がなくなって、しょっちゅう吐き気が起こり、無理に食べると吐いてしまうようになったのは」

 性被害によって石丸の身に最初に生じた異変が、この“嘔吐”だった。学校では授業を受けていても吐き気に気を取られるようになり、給食にはほとんど手を付けなかった。奥田が近くにいて精神的圧迫を感じる時に顕著だったが、安全なはずの自宅での食事でも流し込むような食べ方になった。そしてよく吐いた。この症状は後々まで続くことになる。

本記事の全文、および秋山千佳氏の連載「ルポ男児の性被害」は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

 

■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編 「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編 《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」
第2回・前編 中学担任教師からの性暴力 被害者実名・顔出し告発《職員室で涙の訴えも全員無視》
第2回・後編 《実名告発第2弾》中学担任教師から性暴力、34年後の勝訴とその後「ジャニー氏報道に自分を重ねる」
第3回・前編 《実名告発》ジャニー喜多川氏から受けた継続的な性暴力「同世代のJr.は“通過儀礼”と…」
第3回・後編 《抑うつ、性依存、自殺願望も》ジャニー喜多川氏による性暴力 トラウマの現実を元Jr.が実名告発
第4回・前編 「なぜ今さら言い出すのか」性被害を訴えた元ジャニーズJr.二本樹顕理さん 誹謗中傷に答える
第4回・後編 「ジャニーさんが合鍵を?」元Jr.二本樹顕理さんを襲った卑劣な“フェイクニュース”
第5回・前編 「性暴力がなければ障害者にならなかった」41歳男性が告発 小学3年の夏休みに近所の公衆トイレで…
第5回・後編 《母は髪がどんどん抜け、妹からは「キモい」と…》性被害後の家族の“拒否反応”の真実 41歳男性が告白
第6回・前編 目の前で弟に性虐待を行う父親 「ほら見ろよ」横で母親は笑っていた《姉が覚悟の実名告発》
第6回・後編 「絶対に外で言うなよ」父親の日常的暴力と性虐待の末に29歳で弟は自殺した《姉が実名告発》
第7回・前編 NHK朝ドラ主演女優・藤田三保子氏が“性虐待の元凶”を実名告発「よく死ななかったと思うほどの地獄」
第7回・後編 「昔、兄にいたずらされたことが」塚原たえさんの叔母、藤田三保子氏が“虐待の連鎖”を実名告発

 

男児の性被害について情報をお寄せください。
秋山千佳サイト http://akiyamachika.com/contact/

「半ズボンをはいてくるように」小学校担任教師による“継続わいせつ” 母親が見逃した息子のSOS《実名告発》

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